猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

「太陽系外惑星を探る」

 シンポジウム「現代天文学の最前線」(2009年12月20日東京大学小柴ホール)の第三報告は田村元秀さんによる「太陽系外惑星を探る――第2の地球と人類の仲間はいるか?」でした。
 私は田村さんの講演は昨年の天文台三鷹)特別公開でも聴いています。そのときにはまだ太陽系外惑星(太陽以外の星のまわりの惑星。「太陽系の外惑星」ではなく「太陽系外の惑星」)の直接撮影は確実には成功しておらず「太陽系外の惑星が撮影できたかも知れない、でもまだわからない」という状態だったと思います。そして、このときの田村さんの講演では太陽系外惑星の直接撮影はとても難しいと強調されていたのが印象に残っています。「灯台のすぐ横を飛ぶ蛍を写すのと同じくらい難しい」と表現されていたのを思い出します。
 それが今回は晴れて「成功しました」報告です。しかも、「めちゃくちゃに難しいものに奇跡的に成功しました!」というのではなく、「難しいけれども着実に観測していけば観測できる」という水準に達しているようです。すばる望遠鏡では、日本、アメリカ、イギリス、ドイツの共同プロジェクトで、新しい太陽系外惑星撮影装置「HiCIAO」(「ハイチャオ」と読むらしい)を使って、今後5年間で500個、太陽に似た星の探索を行い、惑星を直接撮影することを目指しているようです。2000年代終盤の天文観測のめざましい発展が印象的です。
 今回観測されたのは、「夏の大三角」のなか、はくちょう座の白鳥の首とこと座とのあいだあたりにあるGJ758という星の惑星だそうです。
 「すばる望遠鏡、太陽型星をめぐる惑星候補を直接撮像で発見」:http://subarutelescope.org/Pressrelease/2009/12/03/j_index.html
 撮影された画像:http://subarutelescope.org/Pressrelease/2009/12/03/fig1.gif
 このGJ758という星は太陽に似た星ということです。惑星「GJ758B」は表面温度が330度(絶対温度で600度)で、これは「これまでに撮像されたG型星の伴星天体の温度としては最低記録です」ということです。つまり、表面温度がそのくらいならば、この「伴星」は暗い恒星や褐色矮星ではなく、惑星だということでしょう。でも、この惑星は太陽系でいうと海王星ぐらいのところを公転している惑星だといいます。中心の星が太陽に似た星で、海王星ぐらいのところを公転している惑星の表面温度が水星の太陽に照らされている側並みっていうのはどういうことなの? 海王星は凍りついた氷惑星(氷+ガス惑星)なのに。たしかに、木星とか海王星とかの巨大惑星は内部に熱源を持っていて、それが、惑星の温度を決める上で、太陽からの熱よりも大きな役割を果たしているといいます。海王星も表面の雲(模様)の活動が活発で、内部にそのエネルギー源になるような強い熱源があるのではといわれています。この惑星「GB758B」は、中心の星は太陽と同じような星で、木星よりずっと遠くて(木星の6倍弱遠いらしい)、木星より熱いのだから、さらに強い内部の熱源を持っているということでしょう。
 また、この星の大きさは、太陽系との比較表によると木星と同じくらいだと表現されています。
 「GJ758と太陽系天体の大きさの比較」:http://subarutelescope.org/Pressrelease/2009/12/03/fig2.gif
 でも惑星「GJ758B」の重さ(質量)は木星の10倍と推定されているということです。だとすると、単純に「質量は体積に比例して大きくなる」と想定すれば、木星の2倍ちょっと(2.2倍くらい)の大きさ(惑星の直径)のはずです(体積は直径の3乗に比例するので、直径が2倍ならば体積は8倍、直径3倍ならば体積27倍……)。もしいちばん重い想定の「木星の40倍」で推定するならば木星の3.5倍くらいの大きさになります。それなのに大きさを木星とほぼ同じと推定するにはそれなりの根拠があるのでしょう。ともかく、木星ぐらいの大きさで、木星の10倍ぐらい中味の詰まっている星ということのようです。でも、あれ? 木星の平均密度が一立方センチメートルごとに1.33グラム(一立方メートルで1.33トン、つまり1,330キログラム)、地球が一立方センチメートルごとに5.52グラムです。で、「GJ758B」の密度が木星の密度の10倍ということになると、密度は一立方センチメートルごとに13.3グラムになって、地球の倍以上になっちゃうよ? どっかで計算まちがったかな?
 ところで、これまで太陽系外の惑星の観測は主として間接的な方法で行われてきました。それは:
 ・惑星が星のまわりを回ることによって星自身も少しだけ振り回されることを利用して、その動きを星のドップラー効果を利用して見つけ出すドップラーシフト(ドップラー偏移)法;
 ・惑星が星の表面の手前を通過するときに星の一部が遮られて星がほんのちょっとだけ暗くなるのを観測するトランジット法;
 ・逆に星の表面の手前を大きい天体が通過するときに星の明かりが重力の作用「重力レンズ効果」で強められ、それを利用して惑星の存在を確認する重力マイクロレンズ法;
 ・星の位置を星図上にマッピングして、惑星に引っぱられて星がふらついていることを見つけ出すアストロメトリ法
などの方法があるということです。1995年に最初に系外惑星が発見されたときの方法がドップラーシフト法で、その後、トランジット法での観測も多く行われるようになりました。トランジット法ならば、冷却CCDカメラ(すごく高感度・高性能のデジカメ)とか口径10センチ級の望遠鏡とかいう、あまりお安くない機材は必要だけれど、ともかくもアマチュアでも観測可能ということです。惑星が星(恒星)の手前を通過(専門的には「経過」という)するなんて、地球にいちばん近い太陽でも水星や金星がその手前を通過するのが何十年に一度とかいう珍しい現象なので、そんなんでほんまに太陽系の外の惑星が見つかるんやろかと思っていたら……けっこう見つかってるらしい。地球と水星・金星のばあい、地球が水星・金星と同じ方向に動いているので、かえって水星・金星が太陽表面の手前を通過するのを見る機会が減っているのかも。アストロメトリ法や重力マイクロレンズ法での発見はさすがに少数のようです。
 間接的な観測のうち、ドップラーシフト法やトランジット法のほうが太陽系外の惑星を見つけるにはかんたんなのですが、そのかわりわからないことが多く残ってしまいます。ドップラーシフト法とトランジット法を併用できれば、惑星の大きさ(直径)と重さ(質量)がわかるという程度です。やっぱりそれは直接に見て確かめたい。直接に観測すれば、惑星の温度や大気の構成などもわかるということです。そして、それは現実に成果を上げた。
 今後は、太陽に似た星の観測を、すばる望遠鏡を利用した国際共同プロジェクトで続けると同時に、赤外線でのドップラーシフト法の観測を展開するということです。そうすると、いま観測しているのよりも軽い星をターゲットにすることができる。軽い星は軽い惑星が周りにあるだけで大きくふらつくので、軽い惑星を見つけることができる。つまり、地球サイズの惑星も見つけられるというわけです。太陽以外の星にも惑星があることがわかったのだから、次は、太陽以外の星に「地球のような惑星」があるかどうか、「地球のような惑星」があるとわかれば、次はそこに生命がいるかどうか、そして「生命がいそうだ」とわかれば人類と同じような「知的生命」がいるかどうかということに関心が向きます。
 太陽近くの星では、太陽に似た星の5パーセントから10パーセントが惑星を持っているとわかっているそうです。しかも、その率は、観測精度が上がればもっと高くなるかも知れません。
 私が高校生だったころには、惑星を持つ星(恒星)は少ないのではないかときいた覚えがあります。ところが、現在では、星はかなりの率で惑星を持っていそうだということがわかってきたわけです。そうすると、地球と同じように「連続生存可能領域」(地球と同じような生命が生存し続けられる場所)に存在する惑星もあるでしょうし、そこに「人類の仲間」がいるかも知れません。ま、仲間になってくれないかも知れないけど。それだけでなく、太陽系内でも、木星の衛星エウロパとか、土星の衛星ティタン(タイタン)とかには、分厚い氷の下に海があり、そこに海洋生物がいる可能性も考えられています。火星だって微生物ならば何かいるかも知れない。「連続生存可能領域」の外でも、内部に熱源を持っている星ならば複雑な生命がいるかも知れないし、そうでなくても微生物ならばいるかも知れないわけです。