隠れ銀河
今回も国立天文台のホームページから。
「観測史上最古の「隠れ銀河」を131億年前の宇宙で発見」
https://www.nao.ac.jp/news/science/2021/20210923-alma.html
「隠れ銀河」ってなんやねん……。
宇宙が始まったばかりで銀河の存在がまだ公認されてなかったから、存在がばれないように隠れて銀河をやっていた、とか?
でも、同じ時代の銀河を探すプロジェクトをやっていて、そういう銀河のすぐ横を探してみたら「隠れ銀河」が見つかった、というのだから、同じ時代の、隠れていない銀河はたくさんある、ということ……だよね?
銀河というと数千億の星の集まりです。私たちの住む銀河(似たようなことばの反復だけど「天の川銀河」といいます。英語ではMilky Way)やアンドロメダ銀河(M31)もそれぐらいの規模です。
宇宙ができたのが138億年ぐらい前ということなので、この「隠れ銀河」は宇宙ができてから7億年から8億年というころのものです。
7億年や8億年も、現在の地球生命にとっては長い時間です。現在から7億年前というとまだ大型の生物は存在しない時代でした。三葉虫もアンモナイトもアノマロカリスもまだいない。そこから私たちの「生態系」がここまで進化するまでの時間、といえば十分に長い。
でも、「宇宙がない」という状態から、宇宙ができて星や銀河ができて、というのが進むためには、どうだろう? 「長い」と言えるのか、ということがあります。
宇宙の最初にできたのは、水素とヘリウム、それとごく微量のリチウム(リチウムイオン電池で使われている金属です)だけでした。だから、宇宙の初期にできた星は水素とヘリウムが主で、ヘリウムより重い元素は含んでいない。
ところで、「隠れ銀河」を隠しているのはダスト(塵)です。しかも、何千億もの星の光をまったく外に漏れないようにするほどの大量のダストが、銀河の外側を包んでいるわけです。
そこで、問題は「そんなもん、いつの間にできたんだ?」ということです。
ダストというのは土ぼこりのようなものなので、不透明な固体がないとできません。水素とヘリウムしか存在しなければ、ガスで銀河を包むことはできても、ダストで銀河を包むことはできない。
地球上の石を作っているような、炭素やケイ素、酸素といった元素が存在しないとダストはできません。あと、欲を言えば、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄とかの金属とか。
そういうものは星の内部でしか形成されません。
ダストのなかで、軽くて大量に作られるものと言えば固体の炭素の粉、つまり煤(すす)です。しかし、この炭素というのも、そう簡単にはできないものです。
星の内部で水素がヘリウムに変化するところまでしか行かないのであれば、炭素はできない。
炭素の原子核ができるためには、ヘリウムの原子核が3つ融合しなければなりません。この「3つ融合する」というのがかなりたいへんです。ヘリウムの原子核はまず2つ融合してベリリウムという金属の原子核の一種(ベリリウム8)ができます。しかし、これがとても不安定で、すぐにヘリウムに戻ってしまいます。それが戻らないうちにもう一個ヘリウムの原子核が融合すると炭素になるのですが、ベリリウムがヘリウムに戻るまでの時間がごく短いので、その確率はわりと低い。
炭素が一定程度できると、炭素を含む核融合反応(CNOサイクル)が回り始めて酸素や窒素もできますが、ケイ素、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などはさらにできにくい。
しかも、星が輝き続けているかぎり、炭素や酸素や窒素やケイ素やほかの金属は星の内部にため込まれて、ほとんど外に出てきません。それを派手にまき散らすには超新星爆発のような大イベントが必要なわけです。
「宇宙ができてから7~8億年」よりもいまの時代に近い銀河で、超新星爆発が派手に起こっている銀河もあります。では、そういうのが、銀河のまわりに大量のダストをまき散らしているかというと、そういうこともないようです。つまり、続々と大型の星が生まれて、続々と超新星爆発を起こしても、それだけでは銀河を包み込むほどのダストや煤は生まれない、ということです。
一方で、「宇宙ができてから7~8億年」の銀河でも、まれに、派手に星が形成されている銀河があって、そういうものはやっぱりダストに覆われて、目で見える光では見えないようです。
そういう「派手な銀河」が落ち着いて、でも「派手」だった時代にまわりにまき散らしたダストや煤が残っているのか?
それとも、別の、ダストや煤ができるメカニズムがあるのか?
そして、その、銀河を覆い隠してしまうほどのダストや煤は、その後の銀河の進化でどうなって行くのか?
どうして、「宇宙ができてから7~8億年」より後の銀河で大量の星が形成され大量の超新星爆発が起こっても、銀河はダストだらけの煤だらけにならないのか?
どうも、宇宙ができてすぐの時代の「初期の銀河」には特有のメカニズムがあるように思えてきます。でも、もしかすると、やっぱりそうではないのかも知れません。
初期の煤だらけの銀河にススワタリがいっぱい住んでる、人間はもちろん生物なんかまだいないのにススワタリはいっぱいいる、とか想像すると、おもしろそうですけど……。
ところで。
銀河と言えば。
「SL銀河」の運行終了が決まったようです。
まあ、無理をしてまで走らせてほしいと求めるつもりはないけど。
残念は残念ですね。
それに、蒸気機関車が限界、というのではなく、「客車」として運行していたディーゼル車が老朽化したから、という理由も、ちょっと……と感じるところです。蒸気機関車のほうは、静態保存されていたものをせっかくリニューアルして動けるようにしたのに。
規模の小さい「小銀河」になっても残ってほしいとは思いますが、いろいろなものの維持にコストがかかる以上、やっぱり難しいのでしょうね。
最近は「「銀河鉄道の夜」の列車は蒸気機関車(が牽引する列車)ではなくて電車だった」という説も出ているようだし(私自身はあまり賛成ではありません)、いっそのこと、花巻電鉄の「馬面電車」の復活運転とかやってみる?