猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

井田茂『異形の惑星』NHKブックス(isbn:4140019662)

 系外惑星(太陽系以外の星の惑星)について書いた本。『自由を考える』の近くに置いてあったのでいっしょに買ってきた。でも、単純な衝動買いというわけではなく、系外惑星の最初の発見(ペガスス座51番星)については、国立天文台天文ニュースがウェブで読めるようになってごく初期(天文ニュース(3))に掲載されていて、その後も何度も話題が掲載されていたので、興味はあった。この本を読んでみると、すでに系外惑星は100惑星に達しているという。なにより、一般向けにこういう本が出るまでに系外惑星はポピュラーになったんだな。
 このペガスス座51番星(この本では「ペガサス座」になっている)の惑星は、中心星から0.051天文単位のところを4日と5時間ほどで回る惑星だ。1天文単位が1億5000万キロ(太陽‐地球間の距離)なので、0.051天文単位は770万キロぐらいになる。この星の半径が太陽とほぼ同じの70万キロとしたら、その表面からは700万キロだ。水星の軌道の7分の1から8分の1、月が地球から38万キロなので、中心星からその20倍のところを公転している惑星である。しかも、それが木星型ガス惑星だということで、「ホット・ジュピター」と呼ばれているらしい。こんな近いところでガス惑星が回っていたら、熱でガスがぜんぶ飛んでしまわないかと心配したりするのだが、まあだいじょうぶなのだろう。
 ところで、いまの観測技術では地球型惑星の発見は難しい。で、このペガスス座51番星の周囲の、ちょうど地球のあたりのところに地球型惑星があって、そこにいまから100年ぐらい前の人類と同じ文明があったとする。この「ペガスス座51番星系仮想地球」文明の人たちは、この「ホット・ジュピター」の存在に気づいているだろうか? この星系の「太陽」からいちばん離れたときで「太陽」からの距離が5度以下だろう。太陽から28度離れる水星ですら見たことのない人がけっこういるのに、この距離ではどうだろう? 5度というとだいたいオリオン座の三つ星から小三つ星(大星雲)あたりまでの距離で、これだけ離れていれば見えるかな? 水星は見えない。金星は昼間に見えることもあるが(古代中国では「太白昼見」とか言って不祥の兆しとされていたらしいけど)、ここまで太陽に接近すると無理ではないか。でも、この星は木星型ガス惑星なので、木星が5.2天文単位(地球の5.2倍)離れていて明るく見えるのだから、水星よりははるかに明るく輝いて見えるはずだ。太陽の光の強烈さに抗して見えるだろうか?
 少なくとも、このペガスス座51番星の仮想地球に地球と同じような月食があれば、そのときにはこの星は見つけられるはずだ。もっとも、地球と同じような月食があるためには、惑星形成時にジャイアント・インパクトがあって月に相当する星が形成され、それが月食を起こすちょうどいい距離にとどまっていることが必要だから、かなりラッキーな条件でないと難しい気はする。
 もしかして、ペガスス座51番星の仮想「地球」の人びとよりも先に、私たちのほうがこのホットジュピターの存在に気づいたのだと想像してみたら、けっこう楽しいかも知れない。
 かつて、水星のさらに内惑星としてヴァルカンという星がある(スタートレックに出てくる?)という説があった。ヴァルカン星の正体として、太陽系にもじつはホットジュピターが存在して、ただだれもまだ発見していないだけ……とかいうトンデモ説を立ててみたらおもしろいと思う。ヴァルカンという星の存在が推定されたのは、水星軌道の近日点が奇妙な動きを示すからで、この水星軌道の近日点移動がアインシュタイン一般相対性理論を立証することになっているから、ホットジュピターとしてヴァルカン星の質量と軌道を計算してみたら、相対性理論をひっくり返せるかもよ?
 もっとも、日食のときにもこんな惑星の存在は見つかっていないし、太陽観測衛星が常時太陽を監視していて見つからないのだから、やっぱり太陽系にはないんだろうと思うけど。
 それより、ペガスス座51番星の惑星をはじめとするホットジュピターは、相対性理論の効果を水星よりはるかに激しく受けているのだろうな。