猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

対策って……

 福知山線での5418M番電車(だと思う)脱線転覆事故に関連して、運転士の資格審査に国が……とかいう大臣発言が出てきているようだ。べつに安全確保のために国がかかわらなければならないのなら、それはそれでもいい。だが、いまこの時点で、この事故に関連してというのには疑問を感じる。
 少なくともNHK総合のニュースを見ているかぎりでは、「伊丹駅オーバーラン→焦った または 処分を恐れた運転士が遅れを取り戻そうとして猛烈に加速→時速100キロでカーブを乗り切ろうとして脱線」というシナリオができていて、それが「真実」として疑われないまま進んでいるような気がする。
 でも、だれが確かめたのだ? 運転士はいちどもその事実を確認していないのに。
 もし「伊丹駅オーバーラン」事件がなければ、カーブで減速しなかったことに関しては、機械的な故障か、運転士の健康状態に異変が生じたかを疑うことになり、まず「運転士がわざと30キロも速度オーバーで運転した」という解釈は生じなかったと思う。とくに、オーバーラン事件に関して司令所が運転士を呼んでも応答しなかったというのだから、運転士の健康状態に急な異変が生じていた可能性がもっと検討されてもいいと思う(この日記の「おとなり日記」に出てきたDr. MagicMusic940さんがこの問題に触れておられます。id:DrMagicMusic940:20050426)。それに機械的故障がなかったかどうかの検証は十分になされたのだろうか?
 安全対策に関して「遅すぎる」はないかも知れない。でも、今回の事故に対する「対策」というのであれば、今回の事故がどのように起こったかをもっと検証してから練って発表するのが筋ではないかと思う。たとえば、国なり第三者的審査機関がかかわるとしても、それが鉄道会社にコストを強いるわりにはあまり効果がない(単に屋上屋を架するだけ)ということになるのでは何にもならない。
 今回の件でやりきれない思いになるのには、私自身が電車が遅れることに異様にいらいらする人間だという事情がある。ふだんはそうでもないのだが、ぎりぎりの時間で仕事の予定を組んでいるときに電車が遅れると露骨に遅刻してしまうので、ほんとうにいらいらする。そのかわり、1分や2分や3分の遅れぐらい「よくあること」という割り切りというかあきらめも一方にはあるけど。電車が遅れてくれたから乗れて遅刻せずにすんだ――ということもたまにはあるし。
 だから、私は、運転士に時間厳守を求めたジェイアールの姿勢をしたり顔で批判する立場にはないと思っている。「安全」と「時間厳守」とがゼロサム的な関係にならないようなやりかたが何かあればいいのだけど。
 運転士というのはたいへん高度な技術を持っている人たちだということは確かめておきたい気がする。今回は40メートルオーバーラン事件が問題になったけど、ふつうは最高速力で100キロとかで走っていた車輌を徐々に減速してセンチメートル単位で停めることができるのだ。というより、一日に停車するすべての駅で、秒単位で時刻どおりに、センチメートル単位で正確な場所に列車を止めねばならず、それに一回でも失敗すると怒られるのだ。ほんとそれだけですごい仕事である。(福知山線は違うけど)ワンマン区間の運転士さんは、そのうえ集札や料金集めもやり、降りるお客さんに「ありがとうございました」と笑顔であいさつもしなければならない。もう存在しないけど、日立電鉄線の運転士さんは最終電車で駅の電灯を消すのまでやっていた。
 どんな仕事についても、現場で働く人たちが正当な誇りを持って仕事できるような環境がやっぱり必要だと思う。……ってけっきょくなんか優等生的なもの言いになってしまった。