猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

コステロ・ショウ『キング・オブ・アメリカ』(asin:B0007XT894)*1

 エルヴィス・コステロ(本名はデクラン・パトリック・マクマナス……というらしい)が「エルヴィス・コステロ」の名を避けて1986年に発表したアルバム。私がピーター・バラカンさんの影響でコステロのファンになってから最初に出たアルバムがこの作品だった。
 そのころ聞いた説明では、プレスリーの「エルヴィス」と、「アボットコステロ」の「コステロ」を取ってつけた芸名を重荷に感じたコステロだかマクマナスだかが、その芸名の重荷を避け、長年、いっしょに活動してきたアトラクションズとは違うメンバー(「Suit of Lights」のみアトラクションズとのセッション)とのセッションでレコーディングしたアルバムということだった。
 ただ、やっぱりアトラクションズとのセッション「Suit of Lights」だけは、慣れているというか、肩の力が抜けた仕上がりになっている感じがする。このアルバムでは「Our Little Angel」とか「Indoor Fireworks」とか好きな曲が多いのだけど、やっぱりこの曲がいちばん心地よく聴ける。
 このアルバムを買ってきて最初に聴いたときの印象を思い出そうとしているのだが、なにせ20年近く前のことなのでよく覚えていない。ただ、このアルバムにつづいて再び「エルヴィス・コステロとアトラクションズ」の名に戻って「Tokyo Storm Warning」が出たときの、開いた口がふさがらないような驚きと、つづいて出たアルバム『ブラッド・アンド・チョコレート』を聴いて感じた「吹っ切れた感じ」の印象のほうは鮮やかに残っている。コステロはこのまま「エルヴィス・コステロ」の名に戻ることなく、この「コステロ・ショウ」の方向で行くものと思っていて、それはさびしいと感じつつも、コステロだかマクマナスだかがそう決めたのならしかたないなと思っていた。それが……「古き良きアメリカ」風の、しかし内容的にはアメリカへの違和感や皮肉が満載の叙情的なアルバムから、リズムの強い、荒削りなところのある、元気のいい音楽に戻ったのだから、びっくりしたわけである。
 昨年度の末に見たNHK教育の『アラビア語会話』の最終回のスキットで「Suit of Lights」のエンディングの部分が使われていて(ちなみに途中から見始めたのでけっきょくアラビア語はまったく身につかなかった)、懐かしかったので、久しぶりに聴きたくなってCDを買ってきた。最初に1曲めの「Brilliant Mistake」のアコースティックギターストロークを聴いたときには「あれ? こんな曲だったかな?」と違和感を感じたけれど、聴き進めるにつれて、20年近くまえに聴いたときの感覚が戻ってきた。
 ところで、コステロの歌詞が難しいのはわかるけど(はっきり言って私にもよくわからないところが多い。とくに最後の「Sleep of the Just」はぜんぜんわからないんですけど……)、日本盤についてる訳詞はちょっとねぇ……まあていねいに訳そうとしているのはよくわかるけど。でも、たとえば、「Brilliant Mistake」で女の人がABCニュースで働いているという話は、仕事が彼女が使いかたを知っているアルファベットの数ほどかんたんだという話ではなくて、端的に彼女はAとBとCしかアルファベットの使いかたを知らないからABCで働いているという皮肉でしょう。もちろんABCというのはあの阪神タイガースびいきの放送局ではないと思いますけど……。