猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

で、この天体はいったい何か?

 もう一つ、この天体の分類でややこしいのは、たぶん、「褐色矮星並みの質量、ホット・ジュピター型の惑星としては大きすぎる密度の天体が、ホット・ジュピターと同じような軌道を回っている」ということのようです。4日と6時間という周期で、太陽よりちょっと大きめの星のまわりを回っているらしい――なので、太陽系でいえば水星の軌道よりもはるかに内側です。
 これを、「ホット・ジュピター型惑星」と見れば、まあ公転周期はホット・ジュピターとしては普通、といったところでしょうか。恒星と褐色矮星の「連星系」と見ても「普通」なのでしょう。ただ、食変光星の例など見れば、もっと周期の短い「連星」もあります。いまのところ、観測されているホット・ジュピターの最短周期より、食変光星の最短周期のほうがずっと短い。
 ESAのページによると、Institut d'Astrophysique de Paris (IAP)(何と訳していいのかわからないので原文のまま) の Francois Bouchy(これも読みかたがわかんないので原文のまま。「フランソワ・ブシー」かな?)博士は「私たちは、星が重ければ、それだけ惑星も重いのだと考え始めている」と発言しているそうです。それにしても、「the more...the more...」構文なんてすっごい久しぶりに見た。「受験生困らせ」のためじゃなくて、実在するんだなぁ、こんな構文。
 で、まあ、専門家はちゃんとしたステップを踏まないで不用意なことは言えないのでしょうが、素人っぽくこの天体が何者かを考えてみると:

 1. 案外、普通のホット・ジュピター
 ドップラー効果計測法では、惑星の軌道が、私たちが見ている方向から角度にして何度ずれているかがわかりません。もし、その軌道が、私たちの見ている方向から60度ずれていれば、コサイン(cos)60度が2分の1なので、私たちが推定する惑星の質量(重さ)は、ほんとうの質量の2分の1ということになります。この COROT-exo-3b は、大きさが推計されたということは、軌道はほぼずれていないのでしょう。もし、従来のホット・ジュピター型惑星で、この「私たちの見ている方向からのずれ」が60度あり、そして、「ずれていないとして計算した質量」が木星質量の10倍であれば、その「惑星」の質量は「木星質量の20倍」ということになり、新発見の COROT-exo-3b は「惑星」の枠に収まります。……って、質量が2倍ならドップラー効果も倍? あー、よくわかんないや。すみません。ともかく、「ほかのは斜めにしか見ていないのに、これはまっすぐ見てしまったから重く見えてしまっただけで、ほかのホット・ジュピター型惑星と変わりません」ということかも知れません――というのが、第一の可能性でしょうか? ダメ?

 2. 褐色矮星のなれの果て?
 もともとは70倍ぐらいの質量があったのに、主星(太陽系の太陽にあたる)の近くまで落ちてきたため、主星の活動で大気が吹き飛ばされて、芯だけ残った。ホット・ジュピターでも大気が吹き飛ばされているらしい例が見つかっているようだし、前に書いたように、ホット・ジュピターの大気の構成と褐色矮星の大気の構成は似たようなものなので、褐色矮星も主星に近づけば大気は吹き飛ばされるでしょう。それで、重水素核融合でできた核がむき出しになってしまった――ちょうど、表層大気を放出した恒星の核が残って白色矮星になるように。そうすると、こういう星は「焦げ茶色矮星」とかいう分類になるのでしょうか? ともかく、そうすると、「惑星にしては大きすぎる密度」も説明がつくかも知れません。
 これはシミュレーションである程度は計算ができるかな、とも思います。褐色矮星の表層大気が放出されて、かつて重水素核融合が起こっていた「核」だけが残ると、この「木星質量の20倍」という質量になるのかどうか、また、「鉛の2倍」という質量になるのかどうか、ということを、計算で検証して、「可能」ということになれば、この「焦げ茶色矮星」仮説は可能性ありということになりますし、どうやってもそんなものはできない、ということになれば、この仮説は破棄するしかない、ということになります。

 3. 超絶でっかい惑星のなれの果て?
 「でっかい」というと『ARIA』シリーズのアリスちゃんですが、それはおいといて。
 これも同じで、もともとは超絶でっかいホット・ジュピターだったのが、表層大気を吹き飛ばされて核だけが残った、という考えかたです。木星の内部には、水素やヘリウムが重力で圧縮されて「金属化」した(電子が原子から離れて自由に動き回れるようになった)部分があったはずで、大気が吹き飛ばされてその部分だけが残った、という可能性です。ただ、「金属化」しただけならば、表層が吹っ飛んで重力がなくなれば、普通のガスに戻ってしまうと思うので、「2.」よりは可能性はなさそうです。また、それ以前に、表層を失ってなお木星の20倍の質量があるのなら、もとの「まともなホットジュピター」だった時代にはどれだけ重かったのか、20倍でも「惑星にしては重い」というのに、もっと「重い惑星」を想定しなければならなくなります。ということで、「2.」よりも無理、って感じ?

 4. 超絶でっかい地球型惑星
 だったら、もともと「木星のような惑星」を考えるからその密度の部分で行き詰まるので、地球型惑星だったとしたら? あるいは、「超巨大隕鉄」だとしたら? もしかすると、木星ぐらいの大きさの地球型惑星もあり得るのかも知れないし、じつは地球型惑星木星よりはるかに大きくなりうるのかも知れない。さらに、地球型惑星の地殻とマントルが吹き飛んで、「核」だけが残ったとしたら?
 でも、そうだとしても「鉛の倍」は重すぎる(密度が高すぎる)んですよね。だとしたら、アストロアーツのページに出ている密度の説明をそのまま流用して:

 5. 超絶でっかい金塊!
 いいんじゃないですか? でも、太陽と同じような主星の近くを公転しているとしたら、金は溶けちゃいますよね。表面にものすごく反射率の高い物質が貼りついていて……もだめだろうなぁ。それなら、いっそのこと:

 6. 核がウラン(ウラニウム)でマントルが鉛の惑星!
 もともとウランだけでできた惑星だったのが、徐々に崩壊(壊変)したり核分裂したりして鉛とかその他の物質とかに変化した。でも、これだったら金塊のほうがいいよ、うん。それに、金塊説にしても、ウラン説にしても、宇宙にはわずかしか存在していないそういう元素だけが凝集した理由の説明が必要です。これもまず無理じゃないかな?

 7. 不摂生がたたって大きくなりすぎた or 魔法で巨大化した
 あ、いや、まあ、科学というのは仮説から出発するものですから、どんな変な仮説も排除してはいけないわけで……。
 まあ、惑星系に破滅的なできごとがあって、偶然、惑星がぜんぶ合体して巨大質量を持つようになったのかも知れないし、あと、惑星が意識を持つようになって、主星のそばで生き残るために他の惑星とか彗星とか隕石とかダストとかを食って巨大化した、とか。
 これは、やっぱりサイエンス系ファンタジーで使えるネタではあるとは思いますけど。

 あ、もうひとつ、もう少しまともなのを書くのを忘れていた。
 8. 近接連星系のなれの果て
 つまり、「褐色矮星」を飛び越して、普通の星だった、または白色矮星だったという考えかたです。つまり、「白色矮星のなれの果ての黒色矮星」と考えるわけです。周期の短い近接連星の片方が先に燃え尽きてしまい、自ら輝くこともなくなった――というわけですが、白色矮星になるにはそれなりの質量が必要なはずで、それが燃え尽きれば「木星の20倍」まで質量を失うものなのか、ということが大きな疑問になるでしょう。また、「軽い白色矮星」は、かなり寿命の長い星が燃え尽きたあとにしかできないので、宇宙に「軽い白色矮星」が成立して、さらにその白色矮星が燃え尽きるという展開を考えるとすると、そんな時間的余裕があったのか、という問題も出てくると思います。
 これを考えるには、現在見つかっている非常に短い周期で回っている食変光星のような近接連星がどう形成されたか(もともとくっついていたのか、それとも、もとは離れていたのが近づいたのか)、これからどうなるのか(このままなのか、伴星が吸いこまれてしまうのか、ぶつかった拍子に超新星爆発でもするのか)ということも考える必要がありますね。まあ、そういう研究している人もいるのだろうと思いますが。

 ま、そんなところです。