猫も歩けば...

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ホット・ジュピターはどうやってできたか

 さらに前回の続きです。
 COROT-exo-3b という新発見の天体についての「謎」の一つは、どうして主星(太陽系では太陽)のすぐ近くにこのような巨大な天体が形成されたかということのようです。
 これはホット・ジュピターについても同じです。太陽系を標準モデルとして考えられた惑星系形成理論では、「主星に近いところに岩石惑星‐主星から遠いところに大型ガス惑星‐さらに遠くには氷天体(準惑星?)」というモデルになるわけで、主星に近いところに巨大ガス惑星ができたりはしません。
 その考えから考えを進めると、ホット・ジュピターは、本来は木星軌道ぐらいの遠さのところで形成されたけれども、それが主星のすぐ近くまで「落ちて」来たのだということになります。カシオペア座の HD17156 という星の周囲の惑星で、その「落ちてくる途中のホット・ジュピター」らしい天体が発見されたということです。
 http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000323.html国立天文台
 より詳しくは:
 http://www.geo.titech.ac.jp/lab/ida/ida/tmp/HD17156.htm東工大井田茂研究室)
 ちなみに、太陽系・太陽系外の惑星研究の拠点の一つ 井田研究室 のホームページは:
 http://www.geo.titech.ac.jp/lab/ida/ida.html
 この系外惑星は、いまは、主星の周囲を21日間かけて、「離心率0.67の楕円軌道」を回っているらしい(離心率 0 で円、離心率が 1 だと片方の端が閉じなくなって放物線、で、 0 と 1 のあいだが楕円)。つまり、木星のような惑星が、彗星のような軌道を回っているわけです。しかも、その軌道の全体が水星の軌道より内側にある。で、これがこのまま回りつづけると、しだいに軌道が円軌道になって、しかも、いま主星にいちばん近づく点の距離はそのままで、典型的なホット・ジュピターになってしまうようです。ホット・ジュピターとなった後の主星からの距離は0.05天文単位、つまり、太陽‐地球間の距離の0.05倍=20分の1(750万キロくらい)となるのだそうです。
 太陽系には、少なくとも「惑星」で派手な(離心率の大きな)楕円軌道を回っているものはありません。厳密に言うと、地球も含めてどの惑星の軌道も多かれ少なかれ楕円ですけど、ほかの惑星と軌道が交わってしまうほど派手な楕円の軌道を回る惑星はありません。冥王星の軌道は楕円で、海王星の軌道と交わりますけれど、冥王星は惑星ではなくなってしまいました。ほかにも、太陽からかなり遠方を回る準惑星か、太陽の近くまで来る天体では彗星か小惑星でなければ、派手な楕円軌道の太陽系天体というのはない。
 ところが、太陽系の外の惑星系には、大型惑星がかなり派手な楕円軌道を回っているのが見つかっているようです。
 だから、そういう楕円軌道を経て大型惑星が主星の近くまで「落ちて」くるとホット・ジュピターになるというわけです。
 でも、この HD17156 の惑星にしても、主星からいちばん離れたところでも水星軌道の内側です。主星は太陽の質量の1.2倍ということなので、場所の条件は太陽系の水星とあまり変わりません。この場所で大型ガス惑星ができたかというと、やはりまず無理ではないかと思います。
 惑星は主星のまわりをほぼ円形に回っているガスと塵の円盤状の雲(原始惑星系円盤)からできますから、最初はほぼ円運動をしているはずです。楕円軌道で斜めに動いたりすると、ガスに押され、ほかの塵とか小惑星とかにぶつかって抵抗が大きいので(ラッシュアワーの改札口付近の通勤の混雑を無理やり横切るのと同じです)、軌道はそのうちに円運動に直されてしまうはずだからです。だから、「できたときから派手な楕円軌道」という惑星はあまり考えられないでしょう。
 しかし、惑星の形成が進んで、そのガスや塵が少なくなると、楕円に動いても別に抵抗は受けません。そうなると、巨大ガス惑星も、ほかの天体に引かれたり、ぶつかられたりして、円軌道から外れ、楕円軌道になってしまうかも知れない。
 で、この HD17156 の惑星は、最初から、軌道上で主星にいちばん近い点が0.05天文単位の軌道を持っていたのでしょうか。最初に現在の木星の軌道あたり、主星から5天文単位(太陽‐地球の5倍の距離、7万5千キロ)くらいのところでできて、引かれたりぶつかったりぶつかられたりのアクシデントでいきなり主星に0.05天文単位まで近づく軌道に「落ちた」のでしょうか? それとも、何度もアクシデントを繰り返して、最終的に0.05天文単位まで近づくいまの軌道に落ちたのでしょうか?
 いきなり0.05天文単位という主星すれすれの軌道に「落ちた」と考えるより、何度もアクシデントを起こしつつ、少しずつ落ちていって最終的に0.05天文単位まで落ちたと考えたほうが自然なようにも思います。でも、何度もアクシデントを繰り返さなければホット・ジュピターになれないのならば、ホット・ジュピターはもっと珍しい存在になるのが普通のように思えます。しかし、最初からこんな主星すれすれの軌道に落ちる確率もそんなに大きいとも思えません。
 どちらにしても、ホット・ジュピターが数多く見つかっていることから考えると、ホット・ジュピターは「偶然、何かの条件が揃ったときにできる珍しい存在」というわけではなさそうです。「どの惑星系についても、ホット・ジュピターができて惑星系が安定する条件というのが存在する」と考えたほうがいいのではないかと思います。
 そう考えると、「太陽系で木星ホット・ジュピターになって太陽系が安定する条件」というのを仮想的にシミュレートしてみてもいいのかも知れませんが……そんなことになったら地球はこのままではいられなくなるので、現実にはあってほしくないですけど。
 なお、ホット・ジュピターが、原始惑星系円盤でできたのではなく、恒星間を漂っていた天体が捕獲されたて主星のまわりを回るようになったのだと考えてもやはり同じで、「そんな事件は宇宙では珍しいわけではない」ということの説明が必要になってきます。