猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

「ねこづくし」展

 江戸東京博物館で開催されていた「江戸東京ねこづくし」展に行って来ました。江戸・東京に限らず、猫に関係する日本の風俗や文物・文学の紹介です。
 そんなに展示物の多い展覧会でもないし、1時間ぐらい見て帰ろうと思っていたのですが、「猫」を自称する私には立ち去りがたい展覧会で、2時間も会場を行ったり来たりしてしまいました。
 展示されていた絵のなかでは、歌川広重の「浅草田圃」の絵がいちばん印象に残っています。女の人の部屋を横から見た構図です。その女の人は遊女のようですが、女の人自身の姿は見えません。床に簪が出しっぱなしになっているのと、その人の飼い猫らしい猫が窓の外を見ていることで、その女の人が部屋のなかにいることが示されている。そして、外は日が暮れた後で、ところどころに民家が見え、遠くには富士山が見え、雁が飛んでいる。人一人見えるわけでもないそんな暗い外の情景を、白猫が見ている。猫も向こうを向いているので、顔はわかりません。窓の外の日暮れ後の寂しさと、明るい部屋のなかにも何となく寂しい心地が感じられて、私はずっとこの絵の前に貼りついていました。
 猫の曲芸とか、猫の温泉とか、猫の歌舞伎とかの絵もあって、その時代の風俗がわかっておもしろい。「温泉」といっても、風呂自体の面積はそんなに大きくなく、あとで涼んだりお茶を飲んだりするスペースが大きい……というのはいまもいっしょかな。上を見上げている猫の後ろ頭で耳が下のほうに描いてあるのは、あたりまえだけど、芸が細かいと思いました。描いてある猫は斑や三毛が多いようです。東海道五十三次の宿場の名を猫に当てはめた地口(だじゃれの一種)があって、「うまい」と思うのもあったけれど、なかなか無理やりなものもありました。「大磯」が、猫が巨大なタコ(蛸)を引っぱっていて「重いぞ」とか。なかには、宿場のイメージダウンにつながるようなネタもあり、現在ならクレームがつくだろうな……。
 夏目漱石を初めとする「猫」作品の作家が書いた、挿絵についての依頼書や作品に関する手紙などもおもしろかった。展覧会の出口には、ネコミミをつけて写真を撮ろうというコーナーがあり、引いているひともいれば、写真を撮っているひともいて、さまざまでした。
 あと、会場の出口のほうで「黒猫のタンゴ」がエンドレス流れていました。私はこの歌をヒットしていた同時代にかろうじて聴いたし、たしか両親にレコードを買ってもらった覚えもあります。もちろん、当時は、それから三十数年の時を経て『ケロロ軍曹』で「ケロ猫のタンゴ」を聴くなんて想像もしていませんでした。歌っているご本人もそうでしょうけど。
 ところで、この展覧会は残念ながら27日で終わってしまいました。