猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

海の気候変動はどうして激しいのか?

 前回載せた文章を書いてから、なぜ海ではそんな大気候変動が起こるのだろうとふしぎに思いました。「それまで気温0度だった冬が気温20度の冬になる」というのは、魚の感覚をシミュレーションしてみた感覚ですが、16度から22度への変化分の6度であっても、地上で6度も平均気温が変わるとなると「大気候変動」どころか異常気象です。海ではそんな大規模な変化が定期的に起こっているというわけです。この「海の長周期気候変動」論が最初のころに受け入れられなかったのは、そんな大変化が恒常的に海で起こっているなどと考えられなかったからかも知れません。
 でも、この変化の幅の大きさも、前回書いた「気体は薄く、液体は濃い」ということから説明できるかも知れません。
 気体と液体でどちらが混じりやすいかというと、それは「薄い」気体のほうです(濃さ・薄さの問題というより、液体や気体の分子がどれだけ自由に動けるかという問題なのでしょうが、ここでは濃さ・薄さの問題ということにしておきます)。液体はかき混ぜたりしなければゆっくりとしか混じり合いません。気体はそれよりは早く混じり合ってしまう。ところが、その「薄い」気体でできている大気にも寒気団とか暖気団とかがあって、温度や湿度や気圧の違う空気の集団はなかなか混じり合わない。混じり合わないから、性質の違う空気の塊の境目に前線が発生して雨が降ったり風が吹いたりする。
 空気がそういう状況だとすれば、「濃い」海水はもっと混じりにくい。寒流の冷たい水は冷たい水だけで、暖流の温かい水は温かい水だけでかたまっている。だから、寒流が流れてくると「冷たい海」に、寒流の流れが来ないと「暖かい海」にと、海の温度が大きく振れる。
 また、大気のばあいは、下に陸地や海があるので、そこで温められたり冷やされたりということが起こります。地面や海面が冷たいとそこで冷やされた空気は縮んで重くなり、上空から新しい空気を引きこむ。引きこまれた空気もまた縮んで重くなる。逆に下に熱い地面や海面があると、そこから熱くて軽い空気が上昇気流として上がってきます。それで空気の動きは活発になり、温度や湿度の違う空気もかき混ぜられる。空気は温度が上がったり下がったりすると大きく膨張したり収縮したりするので、その膨張や収縮によってまわりから空気を引きこんだりまわりの空気を押しのけたりし、かき混ぜ効果が進みます。
 しかし、海では、海底は太陽熱で急激に温まったり冷えたりはしません。水も膨張も収縮もするけれども、その変化は空気よりはずっと小さいので「かき混ぜ」の要因にはなりにくい。海の表面が温まっても、温かい水はもともと軽くて浮くものだから、「かき混ぜ」(対流)の要因にはならない。海の水をかき乱す要因があるとしたら、表面で冷やされた水が重くなって中低層に沈みこむことぐらいです。けれども、その重く冷たい海水の沈みこみの場所は限られているし、沈みこんだ水は深層の大循環を作って海底をゆっくりと流れるので、沈みこんだ場所で海底の栄養素を表層に巻き上げてプランクトンを繁殖させるという働きはあっても、海全体の温度を平均化する役割は果たしません。
 水は大気より濃くて混じりにくい。だから、海中で「気候変動」が起これば、それは地上でよりも大きな「振れ」になるのでしょう。