猫も歩けば...

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「シリーズ現代の天文学」について

 この「シリーズ現代の天文学」は、専門性が高くて、そんなにたくさん売れる本だとは思えないのですが、それが2000円台の価格で買えます。この『宇宙論I』は本体2100円です。たしかに富士見ファンタジア文庫とかコバルト文庫とかに較べれば高いですけど、ハードカバーの専門書がこの価格というのはかなり「破格」の安さだと思う。それに、「シリーズ現代の天文学」の1冊を読むのにかかる時間は、たぶん富士見ファンタジア文庫4冊を読む時間に匹敵すると思うので、お得……かどうかはわかりませんが。
 この「低価格」が可能になったのは「篤志家」の寄附があったからだということです。だったら、その「篤志家」は自分の名まえを「冠」につけて「○○記念シリーズ現代の天文学」とかにしてもよさそうなものだけれど、そうはなっていない。近頃には珍しいゆかしい人柄だと思います。
 また、シンポジウムの最初に紹介されていた出版の経緯を見ても、複数の出版社に企画書を出してもらってコンペのような形式で出版社を決めたということで、そのことも「よりよいものをより安く」出版することを可能にしているように思います。
 このシリーズの特徴は、複数の分担執筆なのに全体の既述の統一がとれているということです。「文系」の共同研究書とか読むと、前後の執筆者と文体もことば遣いも違うだけでなく、同じ固有名詞の表記が違っていたりとか、同じことをまったく別の書きかたで表現していたりとかいうことがよくあって、読むときに混乱することがあります。しかし、この本は、文体やことば遣いも用語の表記が統一されているだけではなく、他の部分に関連した詳しい記述があると「このことは×章参照」と書いてあります。ばあいによっては先に出ていた別の巻の既述が紹介されていることもあります。ていねいに編集しているということがよくわかります(ただし巻が違うと表現が違うことがあります)。
 ところで、「シリーズ刊行によせて」(岡村定矩編集委員長)には、意欲のある高校生にも読んでほしいと書いてあるのですが、いまどきの高校生はこの本がわかるのだろうか? この『宇宙論』の巻など、私程度の知識と理解では「一読」しただけでは何が書いてあるかすらよくわからないところがあり、かなり高度な内容だと思うのですが。
 新刊の『天体物理学の基礎I』にいたっては、2ページに出てくるニュートン運動方程式でもう「わけわからない」状態……ってこんなんだったっけ、ニュートン運動方程式って? 二階微分まで使ってるんだけど……。ではなんでそんな2ページで挫折する巻を購入したかというと、それはひとえに私が「新刊あります!」の一語に弱いという理由によります。だってさぁ、机に「新刊」って書いて積んであったら、それはとりあえず買うというものじゃないですか……。
 そんな状況なので、このシリーズの巻別構成については何も言える状況ではないのですが、欲を言えば「天文学史」が一冊あればよかったなと思っています。現在の天文学に直接に続く成果だけでなく、世界のさまざまな文化を持つ人びとがどんなふうに「天文学」や「宇宙論」を考えてきたかということが一冊にまとまっていればよかったと思うのです。もっとも、それは私がまだ持っていない第一冊に出てくるのかも知れませんし、各巻でも触れている部分があるようですし、シリーズが「現在天文学」なので、「天文学史」はなくてよいのかも知れませんが。