猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

反粒子

 で、「対称性」の一つとして「粒子の対称性」というのがある。ある粒子があれば、その粒子とある性質だけが正反対で、その他の性質は基本的にまったく同じものが一種類あると想定する。それが「粒子の対称性」です。
 わりとわかりやすく、また、わりと早い時期に存在が予想されて実際にも発見されたのが、電荷(帯びている電気がプラスかマイナスか、電気を帯びていない=0か)をめぐる「対称性」です。
 普通の電子はマイナスの電気を帯びています(=電荷がマイナスです)が、質量(重さ)とかほかの性質は電子とまったく同じで、ただ帯びている電気だけがプラスの粒子があると予想され、実際に発見されました。英語では「ポジトロン」といい、日本語では陽電子といいます。この「ポジトロン」という名まえについて、「エレクトロン」(電子)にしても「プロトン」(陽子)にしてもそれまで発見された粒子はギリシア語のエレガントな名まえがついているのに、「ポジティブ」(電荷がプラスだということ)と「エレクトロン」の一部をつまみ食いしてくっつけてええかげんな名まえをでっち上げるとは何ごとだとファインマンさんが怒っていましたが。
 「……って誰?」と言われたりするかも知れません。リチャード・ファインマンは、朝永振一郎博士といっしょにノーベル賞を受けた物理学者で、一般には『ご冗談でしょう、ファインマンさん』(上巻 isbn:9784006030056、下巻 isbn:9784006030063)などのエッセイで知られています。「ファインマン物理学」という、初歩的な力学から相対論・量子力学までをカバーする教科書も書いています……というより、エッセイではなくこっちが本業です。日本語版は大きいサイズ(B5版?)の分厚い本で5分冊です。私は、第一冊の前半で、中学校のときの理科の「トラウマ」を思い出し、さっそく挫折しました。
 ファインマンさんは、物理学関係の名まえは(古典)ギリシア語でつけるのが美しいという美学を持っているようで、「ポジトロン」でもだめなのだからもちろん「クォーク」(「がぁ!」という鳥の鳴き声)なんてもってのほか、さらに「クォーク」に「ストレンジ」(奇妙な)とか「チャーム(ド)」(魅惑された、魔法にかけられた)とかいう種類があるのなどとうてい許せないということのようです。