猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

すべての粒子に反粒子があるということ

 ともかく、電子だけではなく、ほかの粒子にも「ほかの性質が全部いっしょで、電荷だけが反対」という粒子があることがわかりました。それが「反粒子」というものです。最初に発見された「陽電子」だけは、プラスの電気=陽電気を帯びているので「陽〜」ですが、ほかは「反〜」と呼ぶのが普通です。たとえば、陽子(ようし)の反粒子は、マイナスの電気を帯びているので「陰陽子」とか「陰子」とかでもいいはずですが(「陰陽子」だと陰陽師みたいでなんか独特のイメージがあるな)、そうは呼ばずに「反陽子」と呼びます。
 なお、電荷が0の(=電気を帯びていない)粒子も普通は反粒子があります。電荷が0の光子は、光子の反粒子も光子で、一つの粒子でプラスとマイナスを兼ねています。同じく電荷が0の中性子も、中性子の内部に電気的・磁気的な偏りがあるらしく、その偏りが逆なのが反中性子です。これは、「中性子は3つのクォークでできている」と考えれば、「プラスの電気を持ったアップクォーク1つとマイナスの電気を持ったダウンクォーク2つでできているのが中性子、反アップクォーク1つと反ダウンクォーク2つでできているのが反中性子」と説明できます(ちなみに、陽子はアップクォーク2つとダウンクォーク1つ、したがって反陽子は反アップクォーク2つと反ダウンクォーク1つ)。電荷が0のニュートリノでは、原子核から電子が一つ出て、原子が原子番号が一つ上の原子に変わるというベータ崩壊(ベータ・マイナス崩壊)で出るのが反ニュートリノ陽電子が一つ出て原子が原子番号が一つ下の原子に変わるベータ・プラス崩壊で出るのがニュートリノです。
 なぜ電子が出る「普通のベータ崩壊」で出るほうが「反」なのか? 電子もニュートリノも「レプトン」という種類に分類される粒子です。で、電子とニュートリノの両方が反粒子ではないほうの粒子だとすると、ベータ崩壊でこの世のなかにそれまで存在しなかったレプトンが突然に2つ現れることになる。これを「レプトン数が2増加する」と表現します。でも、片方が「反」ならば、反粒子は「普通の粒子マイナス1個分」と勘定するので、電子(レプトン数1)と反ニュートリノレプトン数-1)ができてもレプトン数はゼロのままです。この世のなか全体ではレプトン数は変化しない(「レプトン数は保存する」といいます)ということにしておいたほうがいろいろと便利なので、電子の出るデータ崩壊で出るのが反ニュートリノ陽電子の出るベータ(・プラス)崩壊で出るのがニュートリノということにしてある……はずです。もっとも、普通は、反粒子ではないニュートリノも反ニュートリノもまとめて「ニュートリノ」と呼んでいるようですけれど。
 ところで、「レプトン」は古典ギリシア語で「軽い」という意味で、電子とニュートリノ原子核を作っている陽子や中性子よりずっと軽いのでそういう名まえがついているわけです。で、現代ギリシア語でも「軽い」は「レプト(ン)」だと知って、私はちょっと感動しました。現在のギリシア語では、もともとあった単語の最後のn音は消えるのが普通なので普通は「レプト」と言いますけれど、でも、同じことばです。難しい物理学用語を日常用語として使っているなんて。ちなみに現代ギリシア語で「大学」は「パネピスティミオ(ン)」で、「すべての(pan-)エピステーメー(知)の(集まる)場所」です。なんかそれもすごいと思う。