猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

「超対称性」は「繰り込み」を無理なく行えるようにする

 さて、一つの粒子が周りに影響を与えて周りで粒子が生まれたり消えたりということが起こるのは、電子のばあいに限りません。ヒッグス粒子でも同じことが起こると考えられています。ところがヒッグス粒子ではこの「繰り込み」がうまくいかない。すでに知られている粒子だけで「繰り込み」をしてヒッグス粒子の質量を算出しようとすると、10進法で30桁もの落差を補正しなければならなくなる。1兆が10進法で12桁ですから、1兆の1兆倍のさらに100万倍の数を「補正」しなければならない。1円の予算を補正予算で1兆円にするとしたら、それは不自然な「補正」ですが、このヒッグス粒子の補正はその1兆倍の100万倍の無理があるわけで……ってなんかへんなたとえです。でも、ともかく「補正」としてはかなり不自然ということですね、たぶん。
 ところが、ここで、「超対称性」というのを導入すると、その落差が説明できてしまうらしい。
 では、その「超対称性」とは何か?
 世のなかにはいろんな「粒子」がありますが、それは大きく分けると「フェルミオンフェルミ粒子)」と「ボソン(ボース粒子)」に分かれます。フェルミもボースも人の名まえで、ボースはインドの人ですね。フェルミはイタリアの人?
 陽子とか中性子とかの「重粒子」――実際には陽子や中性子を構成しているクォーク――や、電子とかニュートリノとかの「レプトン(軽粒子)」はフェルミオンの一種で、これは一つの場所に二つ以上の粒子が(詳しく言うと「同じ状態の二つの粒子が」)存在することができません。
 それに対して、光や「弱い相互作用」や「強い相互作用」(原子核を一つにまとめる力。「色力」、「核力」ともいう)を媒介する粒子は「ボソン」に属します。相互作用を媒介する粒子は、電磁相互作用のばあいは光の粒子「光子」(こうし、フォトン)、「弱い相互作用」ではW粒子とZ粒子、「強い相互作用」ではグルーオン(膠着子)といいます。これはすべてボソンです。こちらは二つ以上の粒子が一つの場所に存在できる。そしてヒッグス粒子もボソンだと推定されています。また、重力相互作用を媒介する粒子としても「グラビトン(グラヴィトン、重力子)」というのがあると予測されています。このグラビトンは、光子、W粒子・Z粒子、グルーオンとは性格の異なるところがありますが(これも詳しく言うと「スピン」の値が違う)、やはりボソンの一種と考えられているようです。
 で、「超対称性」というのは、いま知られているフェルミオンにはそれに対応するボソンが、いま知られているボソンには対応するフェルミオンが存在するという理論です。
 つまり、光子(ボソン)には対応する「フェルミオンの光子」が存在し、W粒子(ボソン)には対応する「フェルミオンのW粒子」が存在し、電子(フェルミオン)には対応する「ボソンの電子」が存在し、クォークフェルミオン)には対応する「ボソンのクォーク」が存在する……というわけです。
 そして、この「超対称性」粒子どうしが入れ替わる過程が存在するとする。つまり、この「超対称性」変換で、ボソンが対応するフェルミオンに変化したり、フェルミオンが対応するボソンに変化したりする。そういう変化が存在するとすると、このヒッグス粒子の質量について、不自然な「補正」が必要なくなるのだそうです。
 なんか「坂上さんがいるなら上坂さんもいるよね」・「田沼さんがいるならば沼田さんもいるに違いない」と言うような理論ですが……それが「超対称性」なのか?……というと、べつに田沼さんと沼田さんがときどき入れ替わるわけではないのから、これは違いますね。
 でも、何かひねればミステリのネタには使えるかも。たとえば、自分の名まえが上から読んでも下から読んでも同じという、性格の風変わりな物理学者がいて、その人が田沼さんと沼田さん、坂上さんと上坂さん……を招いてパーティーを開き、そのパーティーで殺人事件が起こって、ちょうど被害者と苗字の上下が逆の人物にだけアリバイがなく……というように。だれか書いてみませんか、「超対称性殺人事件」。初期の犀川&萌絵シリーズのような雰囲気の作品になるかも……ってまた余談でした。それとも、もうあるかな?