猫も歩けば...

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「仮説に仮説を重ねる」という方法

 ところで、『宇宙論I』によれば、現在、ダークマターの候補とされているのは、超対称性粒子のほかにニュートリノアクシオンという粒子があるのだそうです。ニュートリノは前から知っていたけれど、「アクシオン」って何かのゲームのキャラ名かと思ってしまいましたよ。もしかするといるかも知れないけど。ここ10年ほどもゲームってやってないからゲームの登場人物というのはもうよくわからなくなってしまってます。
 このうち、ニュートリノは、ダークマターとして十分な質量があると、宇宙ができたばかりのころに大きな「ゆらぎ」を作り出してしまい、いまの宇宙にある以上の「ゆらぎ」を作ってしまうことになるので、候補からはずれる。
 アクシオン(無理に訳せば「軸子」とか「枢軸子」とか?)というのは、「強い相互作用」理論の問題点から想定される粒子だということです。「強い相互作用」の理論では「電荷の対称性」と「右と左の対称性」が破れてもかまわないことになっている。ところが、じっさいには破れない。ということは、「電荷の対称性+右と左の対称性」が破れたときに、その綻びを繕う粒子があるはずだということになる。その「対称性を戻す粒子」をアクシオンと名づけた。これもなんか「対称性」が破れるか破れないかというところから考えつかれた存在なのですね。「対称性」というのが、素粒子を考えるときの基本的な発想の一つになっていることがわかります。
 で、ニュートリノアクシオン以外では、やはり有望なのが「超対称性粒子」ということになるわけです。しかし、「超対称性粒子」は、すべてが安定であるわけではなく、「いちばん軽い超対称性粒子」だけが安定だというのが現在の理論なのだそうです。それが、ニュートリノの超対称性粒子であるニュートラリーノか、グラビトン(重力子)の超対称性粒子であるグラビティーノかどちらからしいということです。
 もしグラビティーノだとすると、軽いばあいには、動きが速くなって、銀河とか「宇宙の大規模構造」とかの骨組みとしては役に立たなくなり、重いばあいには、宇宙が冷えてから崩壊を起こして、元素の合成などに影響を与えてしまうので、どちらも現実の宇宙と矛盾する。そこで、グラビティーノの質量がどっちにもならないように、ダークマターとは直接に関係のないところまで、理論を工夫しなければならない。
 ということで、あるかどうかわからないものを「ある」と仮定し、それが「どうやったら存在できるか」を構想してみることで、いま知られているものごとの性質とか、その相互の関係を見直すとかいうことができる。「仮説を立てて、実証する」のが「科学」だけど、すっきりした「実証」まで行かず、「仮説の上に仮説を重ねてみる」、「仮説と別の仮説を組み合わせてみる」、それでどうなるか考える――というのも「科学の方法」の重要な一面ではないか。なかなか「実証」が難しい段階まで来た「科学」では、それが重要なんじゃないかと思ったりもするわけです。