フィルマー卿の主張とロックの反論
「第一論」の政治的な論旨そのものは、「第二論」の最初に要約されている部分で十分ではないかと思います。
ロックの批判によるかぎり、ロバート・フィルマー卿の論旨は:
・神は最初の人間(男性)であるアダムに絶対的な「父としての権力」を与えたこと
・アダムよりあとに生まれた人間は、エヴァ(イヴ)を含めて、神から与えられたアダムの「父としての権力」に絶対服従しなければならないこと
・したがって、その「父としての権力」を持たない人間は、「自由に生まれついている」とは言えないこと
・王の権力はそのアダムの絶対的な「父としての権力」を継承したものであること
・したがって、国民には王に反抗する権利もなく、国民が王を選ぶなどというのはもってのほかであるということ
というようなもののようです。
これに対して、ロックの主張は:
・絶対的な「父としての権力」を神がアダムに与えてはいないこと。たとえアダムに「父としての権力」が与えられていたとしても、それは政治的支配権とは関係のない、家族内の権力にすぎなかったこと
・もしそんな支配権があったとしても、それは子孫に継承されるような性格のものではなかったこと
・もし子孫に継承される支配権があったとしたら、全人類はアダムの子孫なのだから、全人類が絶対的な「父としての権力」を持っていることになってしまうこと
・「長子相続」という原則は旧約聖書には見られないのだから、その「父としての権力」が長子相続で継承されたとはいえないし、もしそう言えるとしても、当然ながら、フィルマー卿やその後継者が担いでいるイギリスの王子(国王候補者)がアダムの長子系の相続者であるなどという証拠はどこにもないこと
・したがって、政治的支配権は、神から与えられたと称する根拠不明の「父としての権力」などではなく、国民に由来し、したがって、不法な支配に対しては国民は抵抗権も革命権も持っていること(これは「第二論」のテーマ)
などということになります。