猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

落ちがなくてごめん!

 ここの説明には、私たちの「日常感覚」とはだいぶ違うものがいくつも入っています。
 まず、力を受けていない物体が、同じ方向に、同じ速さで動きつづけるというのが異様かも知れません。力を加えていなければ方向は変わらないかも知れない。でも、力を加えていなければ、速さはどんどん遅くなって、止まってしまうのではないか。いや、投げ上げたボールや打ち上げたボールを見れば、最初は上とか斜め上とかに向かっていたボールが、最後は下向きに落ちてくるわけです。向きも変わっている。力を加えないものは、速さは落ち、上向いていたものは下向きに向きが変わるのではないか。そう考えるのが「日常感覚」だろうと思うのです。
 でも、これは、前回も書いたように、地上には重力も摩擦力もあるからです。打ち上げたボールが落ちてくるのは地球の重力がいつもボールを引っぱっているからで、けっして何の力も受けていないわけではありません。走り続けている車が、エンジンやモーターで加速していないと次第に遅くなって止まるのは、地面やレールとの摩擦があり、また、車輪や車軸と軸受けのあいだにも摩擦があって、その摩擦の力が働いているからです。だから、投げ上げたボールに働く重力の力や、転がる車輪にかかる摩擦力をすべて取り除いてやると、ボールも車も、いま動いている方向にいつまでも同じ速さで動きつづけるはずなのです。
 ほんとか?
 相対性理論が信じられないという人はいるけれど、それを言うなら、「モノは力が加わらないかぎり同じ方向に同じ速さで動きつづける」というニュートン力学の基本も、なかなか信じにくいと思ったりしません?
 また、「落ちる」=「重力に引かれる」ならば、最後には地面に衝突してしまうはずです。しかし月は地面までは落ちてきておらず、地面からは年々遠ざかっている。それでも「落ち」ているのか?
 もし月の軌道のところまで届くような長い平らな地面があれば、月はその地面に衝突してしまうのです。そうならないのは、地面が地球の表面であって、球面だからです。だから、落ちても地面まではいつまで経っても落ちてこない。地面から遠ざかりつづけても落ち続けている。落ちてはいるくせに地面まで落ちてこないのは、地面のかたちが平らではなくて球面だからだ、地面のほうの問題だ、とも言える。
 「果てしなく落ち続ける」というと、地面の下に地獄とか奈落とかいうとても深いところがあって、そこへ向かって落ち続けるように思えるのだけど、実際にはそうはならない。月や人工衛星のばあいだと、そうやって「落ちて」行った先では、また別の方向から地球に引っぱられるので、「落ちる」方向が変わってしまう。その「落ちる」方向がいつも変わり続けて、その結果、地球のまわりを、月はほぼ円を描いて回っているということになるのです。
 「果てしなく深いところ」にまっすぐ落ち続けるのと、落ち続けているのに円を描いて回ってしまっていつまで経っても「落ち着きどころ」に行き着けないのと、どっちがいいかというと……どっちも厭だったりして。
 こうなると「落ちる」ということばの語感の問題もあって、「落ちる」を「もともと持っていた高さを失う」のだと感じると、衰えるとかダメになるとかいう感じがするし、「みんなから浮き上がっていたのが、みんなと同じ平面までたどり着く」と感じると、「落ち着く」ということでほっとする。なんか奇妙な話が進んで行って、それが最後にみんなが納得できるところに帰ってくるのが話の「落ち」なのかどうか知りませんが……。
 たぶんね、今日の話も「落ち」がないと思います。この日記はいつもそうです。
 ……すみません。