猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

前島賢『セカイ系とは何か』ソフトバンク新書、2010年、isbn:9784797357165

 ある友人がこの本を読んで、おもしろかったということだったので、買って読んでみました。
 著者は、設定上の碇シンジの年齢と同じ14歳で、前の『エヴァンゲリオン』の劇場版完結編を観たという「第三世代オタク」で、東浩紀さんが編集・発行していたメールマガジン波状言論』のスタッフも務めていたということです。そういえば、お名前、どっかで見た記憶、ありましたよ。
 「セカイ系」ということばの最初の定義から、「セカイ系」ということばが評論界やライトノベルの書き手などに広がって行き、「セカイ系」の定義が変容していく過程、(「セカイ系」作品そのものの存在だけでなく)「セカイ系」ということばの存在自体がライトノベルなどの書き手に与えた影響などを現在に向かって追っていくという展開です。最初のほうでは、1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』(そのうち「ファースト・エヴァ」とか呼ばれるようになるのかな?)について詳しく書いてあります。これは、後の「セカイ系」作品に『エヴァンゲリオン』が絶大な影響を与えたという位置づけからで、この本のサブタイトルも「ポスト・エヴァのオタク史」となっています。
 この本は、現在の「オタク文化」の「全容」の解明を目指した本というより、それを「セカイ系」という観点、しかも、「セカイ系」作品の分析よりも「セカイ系」がどう認識され、語られてきたかという、比較的限定された観点から論じた本だといえるでしょう。そういう意味では、「オタク文化論」の中での議論の「射程」は限られているのですが、それでも、「オタク文化」について私が何となくわからなかったこと、気がつかなかったことに「解答」を与えてくれたように思います。
 たとえば、岡田斗司夫さんの「オタクはすでに死んでいる」ということばについて、この本には「≒」記号をつけて「オタク第三世代は、オタクではない」と書いてある。つまり第三世代オタクは第一・第二世代オタク(とくに岡田斗司夫さん自身を含む第一世代)とは本質的にまったく違う、と。ああ、そう理解すればいいのか、と思いました。