猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

「数学には一つの正解しかない」ということはない

 二つめの「難解」さには触れないとして、一つめの点についてです。とくにわかりにくいのが、理論物理学、とくに素粒子物理学で使われる数学の難解さです。
 そりゃそうです。「高等数学」なんだから。でも、その「わかりにくさ」を追究してみると、その一つの大きい理由の一つは、高校まで習う数学で当然とされていたことが通用しない数学が理論物理学では大手を振って使われるということでしょう。えーと、「大手を振る」のが数学さんなのか、数学を使う人なのかは、考えてもあんまり意味がないので、考えないことにしましょう(そういうこと書くからわけがわからなくなるんだって)。
 たとえば、とくに数学に関心のない人や数学の専門的知識を持たない人にとっては、「a×b=b×a」という「法則」は、小学校で「九九」を習ったころから中学・高校までずっと叩きこまれてきた「法則」です。ひと皿4個盛りのりんごが3皿でも、ひと皿3個盛りのりんごが4皿でも、けっきょくりんごは12個でしょう――というわけです。それは「ひと皿6個盛りのりんごが5皿」と「ひと皿5個盛りのりんごが6皿」でも、「ひと箱60個入りのりんごが10箱」と「ひと箱10個入りのりんごが60箱」でも同じです。ま、りんごの場合、食べるときの都合とか、運びやすさ運びにくさとかは違うけどね。ひと箱10個入りで60箱は管理も運搬も面倒そうな気がする。
 でも、個数については、あくまで「a×b=b×a」であるわけです。
 しかも「文学や社会については答えはさまざまだが、数学は一つしか正解がない」と、数学以外の科目でも何度も繰り返して教えられる。というより、国語の先生とかが「数学は答えが一つしか正解がないけど、文学にはいくつも答えがありますから」とか教えるんだな。でも、いま大学入試ってマークシートが多いみたいだし、そうなると国語でも「国語でも正しい答えはたった一つです」って教えてるんだろうか?
 国語のことはここではこれ以上触れないとして、だから、生徒は「数学の正解は一つだ」と覚えていくわけです。そして、高校まで行って、たぶん理系を専門にしたいと思う人だけが「行列式」というのを学び、そこで「A×B=B×Aとは限らない」という数学に出会い、とまどう。数学でも場合によって「法則」が成り立たないことがあるの?――というわけです。それがいまの現実ではないでしょうか。
 ところが、量子力学のような理論物理学に出てくる数学は、その「A×B=B×Aとは限らない数学」を基礎に発展させた数学だったりするわけです。だいたい、小林さんと益川さんが何でノーベル賞を受賞したかというと、「小林‐益川行列」という「行列式」によって、「クォークが少なくとも三世代存在する」ことを論証したからで、その「行列」というものの性質がわかっていないとよくわからない。