猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

手嶋兼輔『ギリシア文明とはなにか』講談社選書メチエ、isbn:9784062584791

 古代ギリシアを「ギリシア‐ローマ」という流れで捉えるのではなく、「西地中海文明」とは違う「東地中海文明」として捉えるという視点で、ペルシア戦争時代からローマ帝国時代までを追った本です。
 この本で強調されているのは、ギリシア人の二つの面です。一つは、ギリシアという土地にこだわり、その土地の外に関心を向けようとしない、いわば「閉じたギリシア」の性格です。もう一つは、積極的に外に関心を向け、ギリシアの土地の外に出ていこう、本来のギリシアの外にまでギリシア世界を広げていこうという、いわば「開かれたギリシア」の方向性です(「閉じた」・「開かれた」というのは私の表現で、直接に著者の使っている表現ではありません)。
 この本では、「閉じたギリシア」の方向性を代表するのが、一生、アテナイアテネ、アテーナイ)の外に出なかったことを誇りにしているソクラテスと、「ギリシア本土」の範囲から外に出ようとしなかったその孫弟子のアリストテレスとされています。それに対して、「開かれたギリシア」の方向性を代表するのは、自ら旅をして取材した結果を著書『歴史』にまとめたヘロドトスソクラテスの弟子でありながら、ギリシア人傭兵団を率いて、現在のイラクからアルメニア、トルコを経て本土に帰還するという冒険をなし遂げたクセノポン(クセノフォン)、そして東方征服者のアレクサンドロス大王などとされる。
 そして、著者は、ギリシア人の「冒険心」・「英雄精神」を評価し、どちらかというと「開かれたギリシア」の方向性を持ったギリシア人に肩入れしているようです。