猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

鈴木五郎『グラマン戦闘機』光人社NF文庫(isbn:4769824548)

 零戦の敵手だったグラマンF6F「ヘルキャット」と、その前のF4F「ワイルドキャット」など、第二次大戦期のグラマン社の艦上機についてまとめた本。
 零戦の開発が懸命な雰囲気を漂わせた国家的プロジェクトと感じられるのに対して、ワイルドキャットやヘルキャットの開発は、この本を読むと、兵器開発ではあるんだけどあくまでビジネスという面が強く感じられる。会社間の競争とかもあるわけだし(もちろん、太平洋戦争開戦までは日本にもあったのだが)。戦争をやっていても自由市場国家としてのアメリカは回転しつづけ、兵器開発もそのなかで行われていたことが強く印象づけられた。だから、大戦後に「軍産学複合体」みたいなのが巨大化してきたとき、その大戦を戦ったアイゼンハワー大統領が「あれはよくない」みたいなことを感じられたのかも知れない。日本では、少なくとも戦時体制に入ってからは軍産学複合体の存在なんかあたりまえになっていたわけだから(畑野勇『近代日本の軍産学複合体』isbn:4423710633入れたので、こんどまた採り上げたいと思う)。
 あと、ヘルキャットは、零戦と戦える性能を確保するためにワイルドキャットを巨大化した機体ということで、軽巡夕張でも零戦でも戦艦大和でもともかく「小さくする」ことにこだわった日本の兵器開発とはやっぱり発想が違うなと感じたりもする。ヘルキャット零戦では「工業製品対工芸品」という感じかな。日本の帝国海軍の兵器は、古鷹とか妙高とかあたり、つまりワシントン条約で「小さいのを少しだけ造れ」と決められたあたりからやっぱりどんどん「工芸品」っぽくなっていくよね。でも烈風は大きかったというのはこの本で知った。
 ところで、「ワイルドキャット」は山猫、「ヘルキャット」は化け猫(地獄の猫?)で怖そうなんだけど、その後継の「タイガーキャット」は日本語にすれば「虎猫」、「ベアキャット」は「熊猫」になる。「熊猫」ってパンダなんですけど……。「虎猫」も、じゃあほかにぶち猫とか三毛猫もいるのかという感じで、あんまり怖そうでなくなってくる。
 まあ、実戦にほとんど出て来なかったのでそんなことを感じるのかも知れないけど。