猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

宇宙初期の赤色巨星と塵

 しばらくわりと頻繁に書いていたのに、ひと月ほどご無沙汰してしまいました。すみません。
 で、今回は天文ネタです。

 宇宙の初期にできた銀河には赤外線を放出しているものが多いのだそうです。その赤外線はどうやったら出るかというと、どうやら「塵」が銀河のなかから出るエネルギーを「温室効果」のように溜めこんで、その溜めこんだエネルギーを少しずつ赤外線で放出しているらしい。
 ところが、この宇宙の初期の銀河が赤外線を少しずつ放出する仕組みの説明には難点があった。それは何かというと、熱を溜めこむためのモノがないということです。私には詳しいことはわからないけれど、初期宇宙にはたくさんあるはずの水素やヘリウムのガスではその「熱の溜めこみ」ができないのでしょう。熱を溜めこむには「塵」が必要だということらしいです。
 ところが、初期の宇宙には「塵」が少なかった。空間に存在する「塵」が時間が経つにつれて増えるのは、宇宙でも私の部屋とかでもいっしょです。いや、何か違うような気もするけど(私の部屋は掃除してその「塵」を少なくとも部屋のなかから減らすことができるけれど、宇宙ではそれは難しい。宇宙には、たとえ掃除ができてもそれを捨てる「外部」がなかなか存在しない。いや、私の部屋とかでも、「外部」に捨てたら「塵」が減るとか考えてるから、住んでる自治体とかでごみ問題が解決しないんだな、たぶん)。
 で、宇宙で「塵(ダスト)」というと、土ぼこりみたいな、ものすごく小さい固体の粒子です。流れ星の本体がこの「塵」です。
 ところが、初期の宇宙にはこの「小さい固体の粒子」そのものがない。宇宙で最初から存在したのは水素とヘリウムだけです。だから、宇宙で最初のころにできた星も、ほとんど水素とヘリウムだけからできていた。
 ところで、地上の土ぼこりは何からできているかというと、もともと岩石が砕けて細かくなったものですから、岩石の構成成分が多い。岩石の構成成分として多いのは、酸素、珪素、アルミニウム、鉄などです。地球は、中心のほうが鉄とニッケルでできていて、表面に近いほうが酸素・珪素の化合物にナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどがくっついた鉱物でできている。そういう元素は星(恒星)の内部で徐々に作られて放出されていく。
 したがって、初期宇宙では、そういう「土ぼこり」系の「塵」の原料がまだできていない。
 ではその「塵」はどこから来たのだ?――ということですね。
 これまでは、超新星爆発で一挙にまき散らされたという説が有力だったらしい。
 「超新星爆発」というのは説明のためには便利な現象です。なぜかというと:
 1. まず、超新星爆発するような星は巨大で重い(=質量の大きな)星です。軽い(=質量の小さな)星では、核融合があまり進まず、できる元素の種類も多くない。ところが重い星では核融合がどんどん進むので、鉄までのさまざまな元素ができる。
 2. 超新星爆発は「爆発」なので、星のなかでできた元素を宇宙空間にすごい勢いでまき散らす。
 3. 爆発の勢いがすさまじいので、その「爆風」のなかで元素同志がぶつけられたりすることで、鉄より重い元素も含めて、さまざまな元素が生成される。
 4. 超新星爆発を起こすような星は寿命が短い。ということは、短い時間で形成されて、短い時間で爆発していろんな元素をまき散らしてくれる。
ということです。つまり、超新星爆発するような星ではいろいろなものが短い時間でできて、しかも爆発で広くまき散らされるわけです。
 しかし、超新星爆発を起こすような星は、普通はあまり多くない。太陽の8倍でしたっけ? それぐらいの重さの材料が一つの星に集まらないと、超新星爆発を起こすような「重い星」はできない。
 銀河の衝突などがあって、大量のガスが一挙に押し縮められるような条件があれば「重い星」がたくさんできて次々に超新星爆発を起こすようなこともあるようです。しかし、初期の宇宙では銀河どうしの衝突がそんなに多かったとも思えない。
 いや、「宇宙の初期には小さい銀河がたくさんできて、その小さい銀河が合体して現在のような大きな銀河ができた」という説をとれば、宇宙の初期から衝突は多く、超新星が多く生まれる場所もあったということも考えられるけど。
 どうなんだろう? これもそのうち観測で検証されるでしょうけど。
 それで、ともかく超新星爆発以外で「塵」の生まれる場所を探すとなると。
 最近、アメリカのコーネル大学、日本の国立天文台、イギリスのマンチェスター大学などの研究者のチームが、初期の宇宙に似た条件の赤色巨星から炭素でできた塵を発見したのだそうです。
 赤色巨星だと、超新星爆発するほど巨大である必要はない。あまり軽い星だと、星の中心のほうで炭素ができるところまで核融合が進まないけれど、それでも炭素ができる程度まで進む星は、超新星爆発する星よりはずっと多いはずです。
 こういう星は、内部で炭素ができているのはわかっていたけれど、「巨星」になった段階でその炭素をまき散らしているということは考えられていなかった。
 で、ありふれた赤色巨星が初期の宇宙の銀河で炭素の塵をまき散らしているのならば、その炭素の塵が銀河全体をもわっと包んで、その赤外線の放出を起こしていると見ることができる。炭素というのは炭ですから、初期の宇宙では銀河は炭火の暖かさでぽかぽかしていたというわけです。
 遠く、しかも遠い昔の宇宙の話をしていたら、「ぽかぽかした炭火」とかいう、わりと身近な感じのものが出てくるのが、「宇宙論」のおもしろいところかも知れないです。いや、私が何か勘違いしていなければ、だけど。
 ……勘違いしてるような気もするなぁ……。
 でも、じゃあ、現役で「燃えて」(核融合反応を続けて)いる星で炭素が表面から飛び出して塵になって漂うというのはなぜなのだろう? 水素でできた分厚い外層を突き抜けて出てくるということ? これまで私が観た星の内部構造図などでは、外に水素の層があり、その内側にヘリウムの層があり、炭素はそのさらに下の層の面にはりついているように描かれていたと思うんだけど。
 星の表面と内部をつなぐ対流のような活動で浮かび上がってきた炭素が、たとえばプロミネンスのような爆発現象の「爆風」で周囲に散って行くのでしょうか? でも、それならば、炭素より軽い水素も散り散りになって「惑星状星雲」みたいになっていてもおかしくないはずです。つまり、水素やヘリウムはあまり散らさずに、炭素だけ散らしていく仕組みを考えないといけない。
 他に、必ずしも星のなかから湧いてきたと考えない考えかたもあります。つまり、炭素を含む塵がもともと宇宙にあって、それが引き寄せられてきたというわけです。まだ珪素や鉄が十分に存在しないから、惑星系を形成ことはできなかったけれど、炭素だけはたくさんあった、と。でも、これだと、その炭素がどこでできたかの説明が必要になるし(やっぱり超新星爆発?)、それだったら赤色巨星よりももっと若い星の周囲にも同じような宇宙の初期の星のまわりにも炭素がないとおかしいことになるから、やはり無理なのかも知れません。
 ところで、「炭素だけでできた塵」というのは、普通は「煤」というのでは……?

 ○今回、参照したページは以下のとおりです。
 アストロアーツのページ http://www.astroarts.co.jp/news/2009/01/16dust_formation/index-j.shtml
 国立天文台のページ(1) http://prc.nao.ac.jp/pio/press/20090116/
 国立天文台のページ(2) http://optik2.mtk.nao.ac.jp/~mikako/mag29/Cover_Page.html 「用語解説」もあります。
 「国立天文台のページ(2)」には、国立天文台ニュースリリースのページから入れます。
 http://www.nao.ac.jp/releaselist/index.html