猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

原子惑星系円盤の「氷」から生命への道

 私が天文情報からご無沙汰していたあいだに、なんか昨年後半あたりから系外惑星についての新たな発見が相次いでいる感じです。
 フォーマルハウトの惑星がハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたとか:
 http://www.astroarts.co.jp/news/2008/11/14hubble_fomalhaut/index-j.shtml
 複数の惑星が一枚の写真に撮影されたとか:
 http://www.astroarts.co.jp/news/2008/11/18hr_8799/index-j.shtml
 系外惑星探査/星震観測衛星コローが地球っぽい灼熱惑星(ホット・アース?)をトランジット法で発見したとか:
 http://www.astroarts.co.jp/news/2009/02/04corot-exo-7b/index-j.shtml

 すばる望遠鏡も原始惑星円盤の観測で大活躍しています。
 そして、先月は、すばる望遠鏡が原始惑星系円盤自体に氷が存在するのを発見したということです。
 http://subarutelescope.org/Pressrelease/2009/02/17/j_index.htmlすばる望遠鏡のサイト。「自分のところ」なのでここがいちばん詳しいようです)
 http://www.astroarts.co.jp/news/2009/02/26ice_in_disk/index-j.shtmlアストロアーツのページ)
 http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000453.html国立天文台「アストロ・トピックス」)
 原始惑星系円盤に氷が存在すると、その氷が、惑星上の水の起源になる可能性がある。つまり、「氷のある原始惑星系円盤」からできた惑星系のなかの惑星(岩石惑星、またはガス惑星の岩石衛星など)が、星の表面温度が0度から100度の範囲になる場所にあるとすると、それは地球のように海のある惑星になるかも知れない。そうすると、生命は海で生まれるので、その惑星にはやがて生命が生まれるかも知れないということです。
 そうは言っても、いま「原始惑星系円盤」をやっている惑星系だとしたら、生命が生まれるのは何億年か先になりそうなので、お会いするのは難しそうですけど。
 一方で、原始惑星系円盤を取り巻く外側の「エンベロープ」に氷があっても、それは「海のある惑星」には必ずしも結びつかないらしい。今回の発見の意義は、その「エンベロープ」ではなく、原始惑星系円盤そのものに氷があることを明らかにしたことにあるということです。ところで、envelopeって「封筒」のことだと思っていたら、「外を包むもの」一般だったのだね。

 この発見が「生命」につながる可能性を考えるにはいくつかの過程が必要です。

 まず、地球にある水や、火星に眠っているかも知れない水や、そのほか、現在の太陽系の水の起源が、原始惑星系円盤の「氷」にあるということが必要です。原始惑星系円盤の「氷」が「岩石惑星上の水」に結びつかなければ、原始惑星系円盤に氷があったからと言って、その惑星系に「海のある星」ができるとは限りません。
 また、惑星の内部の鉱物に含まれていた水が、惑星ができてから湧き出してきて惑星状の水になるのだったら、とくに原始惑星系円盤に氷がなくてもいいわけです。鉱物には「結晶水」として「水」を最初から抱えているものがあるし、水素と酸素があれば水ができる可能性はあります。
 でも、この話は、また次回(以降)ということにしましょう。

 それと、生命の誕生には海が必要だということが条件になります。
 たしかに陸上での生命の誕生は難しそうです。初期の惑星では隕石などが大量に降り注いでいて陸上は苛酷な環境ですし、その後も中心の星の紫外線が降り注いでくる。アミノ酸や脂肪やリン酸系の物質(DNAとか)が水のない地上の環境で活発に合成できるかというと、難しいかも知れない。乾いた環境で、しかも活発な物質合成を進められる環境はといえば、ものすごく濃い大気がすごく激しく活動しているばあいとか、放電の火花が絶えず走っている状態でしょう。でも、水というのは、ものを溶かすうえに、水に溶けないものでも「どろどろ」の状態(コロイド……と言っていいのかな?)にして混ざりやすくする性質があるので、その水がなくて活発にものが混ざり合うというのはけっこう難しいと思います。
 しかし、液体の海がなければ生命は生まれられないのか? 以前は、生命に成長するような物質は、波打ち際の泡の表面のようなところで入り混じり、生み出されたのだと説明されていたのを覚えています。少なくとも私はそう習ったと思うんだけど……だいぶ昔の話だからなぁ。しかし、現在では、深海底の熱水噴出地のほうが可能性が高いと考えられている……んだと思う。だとすると、岩盤の内部で火山活動の活発な高熱地帯や、逆に、隕石が降り注いで地表が溶岩化した下側の高熱地帯で生命が発生することもあるかも知れません。でも、そう考えたとしても、とりあえず、「海」でなくてもいいから、「水」は必要そうです。
 可能性としては、いまの土星の衛星のように、メタンなどが凍ったり融けたりして流動しているばあいに、「水の海」と同じような作用をして生命が生まれるか、ですね。
 メタンというのは、炭素1つに水素が4つくっついた物質で、地上では気体です。なんでも二酸化炭素以上の猛烈な温暖化ガスだそうで、地上では食べものとかが腐敗したりして分解される過程で発生するということです。
 私は、子どものころ、都会の海の近くに住んでいたことがあって、そのころ、近くの川の川の水がまっ黒で、ぽこっ、ぽこっと泡が上がってきていました。あの泡はメタンガスというものだと教えてもらいました。当時のことだから、ヘドロが腐敗してメタンが発生していたのですね。それで、私は、子どものころ、「メタン」というものにすごい恐怖を感じていました。そのころはメタンはヘドロの臭いがする気体だと思っていたものね。ちなみに、しばらく前に機会があってこの川を見てきました。もうメタンが発生したりはしていなかったものの、あんまりきれいにはなってなかったですね。
 でも、メタンはほんとうは無色無臭の気体なのだそうです。
 で、太陽系でも土星のあたりまで行けば、そのメタンが冷えて液体になり、条件がうまく揃えばメタンの海ができます。
 では、そのメタンの海で生命が発生するかです。どうなんだろう?
 「だめ」という根拠としては、まず「冷たいから」が考えられます。生命は、深海底で熱水の噴出するような高温の環境で生まれるのだとしたら、メタンの海は水の海よりはるかに冷たいわけですから、そんなところにそんな高温の環境があるわけがない。
 しかし、深いメタンの海があって、その底で、地質活動で熱水ではなく液体の熱メタンが激しく動いていたら? メタンが高温になると気体になってしまうのは圧力が低いからで、海がとても深くて圧力が高く、メタンが液体のまま高温になるとするとどうなのでしょう?
 けれども、さっき書いたように、水はさまざまなものを溶かし、溶けないものまでもどろどろにしてしまう性質がありますが、メタンにはその性質がありません。たしかに、水に溶けないものはメタンには溶けるでしょう。けれども、メタンは、メタンには本来溶けないものの分子のあいだに入りこんで、そのものを「どろどろ」にしてしまう性質はなさそうです。そういう点では、物質どうしを結びつけるにはあまり適当ではない感じがします。
 だから、現在の地球上の生命を「生命」と考えるばあい、それと同じような生命は、メタンの海では発生しそうにないです。
 ただ、水がなく、また、高温の環境がなければ「生命」という活動が生まれることは絶対にないとは私たちは言えないわけです。地球の例しか知らないわけだし、その地球の例だってまだわからないことがいろいろあるのですから。
 私たちの生命の「もと」は50億年ぐらい前にできた。それから50億年のあいだに、宇宙では星が次々と元素を合成し、超新星が重い元素をまき散らしてきた。したがって、水素やヘリウムよりも重い元素がいまの宇宙にはもっと多いはずです。また、超新星が相次いで爆発した場所などは、宇宙のほかの場所より重い元素が多いかも知れない(でも、重い元素が宇宙でどう分布しているか、一部に偏っているのかわりと均等に分布しているかは、そのうち観測できるようになりそうにも思います)。そういう条件では、もしかすると、水がなくても生命に結びつく物質が出揃う……かも知れません。あるいは、身体を持たず電気的な記憶だけを蓄積して文明的な営みをする「生命」みたいなものがいきなり生まれるかも知れない――というのはSF的すぎるかな?
 でも、まあ、とりあえずの結論としては、「氷のある原始惑星系円盤」のほうが、岩石惑星ができたときに海ができる可能性が高く、海がある岩石惑星のほうが、地球上にいまいるような生命が生まれやすい――ということは言えるから、「氷のある原始惑星系円盤」が「地球のような生命」に結びつく可能性は高い、とは言っていいんじゃないかと私は思います。
 その原始惑星系円盤のなかの氷がほんとうに「岩石型惑星の水」に結びつくのか、という問題のほかに、原始惑星系円盤のなかで氷のある円盤はどれくらいあるのかか、それはタイプ分けできるのか、タイプ分けできるとしてそれはどんな意味を持つのかという問題が次に出てくると思います。私がこんなことを思っているときには、もう専門家の方がたはそういう問題の解明へと動き出しているんじゃないかと思うけど……。