猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

本田良一『イワシはどこへ消えたのか』中公新書、isbn:9784121019912

 マイワシ、つまり「大きいイワシ」が北海道東沖(道東沖)で1993年を最後に獲れなくなってしまった。私は、もともと、「イワシ」というと「小さいイワシ」、つまりカタクチイワシのことだと思っていましたから、スーパーの売り場で「大きいイワシ」の値段が上がっていくのを横目で見ていただけでした。たしかに、マイワシが獲れなくなったという報道は聞いていたように思います。あまりまじめに報道を見ていなかったからよく覚えていませんが、当時は、獲りすぎだという説と、くじらのような大型の魚が餌として食べてしまうからだという説とが紹介されていたように思います。
 ところで、「くじらのような大型の魚」と書きましたけれど、くじらは魚類ではありません。ところが、現在では、海や淡水にいる「魚っぽい生きもの」は「円口類」とか「硬骨魚類」とかに分かれていて、「魚類」という分類自体が存在しないのだそうです(と以前に読んだ『子供の科学』に書いてありました)。外見上は同じような「魚」でも、その身体構造などの違いは、たとえば爬虫類と哺乳類の違いより大きい。だからいっしょにできないのだという説明だったと思います。だとすれば、「魚」ということばを、生物学的な分類としてではなく、「魚っぽい形をしていて水のなかに住んでいる生きもの」と定義しなおしてもいい。だったらくじらもいるかも「魚」の一種ということになります。たぶん「哺乳類がいちばん進んでいる」という価値観の下で、生物の系統を主として呼ぶか、それとも形や泳ぎ方や食性で分類して呼ぶか、そのどっちがいいか、その場に応じて考えてみてもいいのではないでしょうか。でもそうすると魚竜も「魚」になってしまうな。
 さて、この本は、マイワシが獲れなくなったことに関わる海の長周期の「気候変動」が影響していることをまず説明しています。その「海の長周期気候変動」の存在と、それが魚の漁獲量に与える影響は1990年代になってようやく実証された。この「海の長周期気候変動」の存在と漁獲量の関係を立証した中心人物は、1980年代に東北大学農学部の教授だった川崎健(つよし)さんという研究者だということです。しかも、国際学会で最初に発表したときにはトンデモ扱いされて相手にされなかった理論を粘り強く研究し続け、ついに主流理論に持って行くことに成功したらしい。