猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

「矮惑星」に和名を

 昨日(id:r_kiyose:20060824)のつづき――って最近このパターン多いな。
 というわけで、「矮惑星」(ドワーフ惑星)のカテゴリー新設と、冥王星の「惑星」から「矮惑星」への格下げが正式決定したみたいだ。
 これに私がなぜ抵抗を感じるかを考えてみると、一つの理由は、「冥王星」という和名があるからではないかと思いついた。
 ちなみに、「冥王星」という和名をつけたのが野尻抱影氏であること、東京天文台国立天文台の前身)がその和名をすぐには採用しなかったことは、MagicalDreamerさんの「The Castle in the MOON LIGHT」(id:MagicalDreamer:20060822)で初めて知りました。
 和名の話もMagicalDreamerさんの日記を読んでいて思いついたのだけど、日本では太陽系天体で和名があるのが太陽と月と惑星の特権である。太陽と月を除けば惑星だけに水星・金星……の和名がある。ところが、小惑星は、その名まえを、ラテン語または英語でそのまま読んでいる。「ケレス」(英語読みだと「セレス」)とか「ジュノー」(これは英語読みで、ラテン語読みだとユーノー)とかである。これは他の惑星の衛星も同じだ(なお、「○○彗星」という彗星の呼びかたは「和名」とは考えないことにする)。
 和名があると「○星」とか「○○星」と言えるのでなじみやすい。問題の冥王星の「冥」を除けば、水、金、火、木、土、天、王、海とどれも小学生でも知っている漢字だ。ところがカタカナ語はどうもなじみにくい。だから、惑星の名まえはなじみやすいが、小惑星の名まえはなかなか覚えられない。惑星や小惑星の名まえをぜんぜん知らない人に、「水星、金星、火星、木星土星」の5つの惑星名と、「ケレス、パラス、ベスタ、ジュノー」の4つの小惑星名と、どちらが覚えやすいかきいたら、やっぱりほとんどの人が惑星名のほうが覚えやすいと言うだろう。
 ところが英語ではそういう区別はない。惑星のジュピター、小惑星のジュノー、土星の衛星のタイタン(ティタン)とあんまり覚えやすさに差はないだろう。ギリシア神話(をもとにしたローマ神話)を知っている人には、「ウラヌス」(天王星)なんかよりも「ジュノー」のほうがよほどメジャーだろうと思う(天王星だけ衛星の名まえが神様と関係なく「妖精の名まえ→シェイクスピア劇の登場人物名」になっているのは、天王星には縁の深い神様がいないからなんだな、たぶん)。ジュノー(ギリシア名ヘーラー)はギリシア神話にいっぱい出てくるから――嫉妬話が多いけど。そんなわけで、惑星の王様がジュピターで、小惑星の女王様がジュノーなのね、ということは、英語圏の人にはわりとかんたんに納得できるのかも知れない。
 だから、英語圏の人たちには、「惑星の特権的な地位」みたいな感覚がないのかも知れず、「プルートー」が「ケレス」などといっしょになってもあんまりへんな感覚はしないのかも知れない。
 ところが、私たちにとっては、和名を持っている太陽系天体で「冥王星」だけが惑星からはずれる。カタカナ名しかない「ケレス」と、まだ番号しかない「2003UB313」といっしょになってしまう。2003UB313はそのうちまたありがたい名まえを急いでつけるのだろうけど、それにしても「矮惑星」のなかで冥王星だけが和名を持つことになってしまいそうだ。
 ということで、それでは収まりが悪いので、このさい冥王星以外の「矮惑星」にも和名をつけてしまおう、というのがここでの提案である。
 で、ケレスって何の神様だっけ、というところでさっそくつまずくのだけど、小惑星から矮惑星に昇格しそうな候補で言うと、たとえばジュノーは天上の王妃だから「天妃星」かな。ただし「天王星ウラノスの妃ではなく、「木星」ジュピターの妃だから、ちょっと混乱するかも知れない。ベスタは農業の女神様だから「天農星」……だったら音が「天王星」と同じだしなぁ。クワイワーとセドナは、よく知らないけど天地創造に関係する神様らしいから、「創王星」とか「始王星」とか? あと『トップをねらえ!』でガイナックスが創造した冥王星以遠惑星の名まえを流用したりとか……。
 まあなかなかうまくいかなかったりするのだが、「水星……海王星」は惑星で、冥王星は「矮惑星」の代表でこの星だけ漢字で書けます、みたいなのもアンバランスな気がするので、なんか考えてみたいと思ったりもする。
 ところで、和名の話を離れて、今回の決議で冥王星矮惑星とするのは、まあ決まったことなのでしようがないけど、冥王星を「海王星以遠天体の新しい種族の典型例として認識する」というのはどういうことなんだろう? 現在、「海王星以遠天体」(そのまま略語にするとTNO。「エッジワース・カイパーベルト天体」なら「EKBO」)には、『天文年鑑』を見ればわかるように、プルーチノ族とかキュビワノ族とかいう「種族」が設定されている。冥王星クワイワーとかセドナとか2003UB313とかと組にして新しい「種族」に入れる、ということなのだろうか。
 あと、もしかすると翻訳の問題かも知れないのだけど、惑星の定義に「その軌道の近くでは他の天体を掃き散らしてしまいそれだけが際だって目立つようになった天体」を入れると、海王星はどうなるのだろう? 海王星冥王星を完全には「掃き散らして」いない。さらに、トロイア小惑星(だったかな? これもうろ覚え)のように、大惑星と同じ軌道で、大惑星と太陽との重力均衡点を回っている小惑星もあるが、これも「軌道の近く」から掃き散らされていないのではないか? 「矮惑星」や小惑星は軌道の近くをうろうろしていても惑星のほうが「際だって目立つ」からいいのか? このあたりもすっきりしない点のように私には感じられるんだけど、どうなんでしょう?
 まあ、考えようによっては、「惑星」から放逐された冥王星が、これからどれだけの仲間を集めてメジャーになれるか、「矮惑星」という新しい荒野の開拓者みたいな立場と見ることもできるわけだ。冥王星と同じくらいか少なくともその半分ぐらいは大きな「巨大な海王星以遠天体」というのが、セドナクワイワーと2003UB313だけなのか、それとももっと見つかるのか、そこで「矮惑星」+「海王星以遠天体の冥王星種族」というカテゴリーを作った今回の決断の妥当性が評価されることになるのだろう。
 「海王星以遠の大型天体のうちで、軌道とか組成とかの面で、やっぱり冥王星だけ特殊でした」なんてことにならなきゃいいけど……。