猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

「思想としての理論物理学」論

 この『破られた対称性』の特徴は、理論物理学の思想的背景について深く触れているところだと思います。
 20世紀の日本の素粒子物理学に大きな影響を与えたのが名古屋大学坂田昌一という研究者で、この坂田昌一マルクス主義の影響を強く受けた研究者だった。それはその後の日本の理論物理学の研究に大きな影響を残していて、ノーベル物理学賞受賞者の小林誠益川敏英はそのような雰囲気の中で育った人たちである。坂田昌一マルクス主義的物理学の一つの特徴はきっちりした段階論にあったのだが、それが失われた現在、日本の理論物理学は「究極理論」ばかりを追う「燃え尽き」型になってしまった。その理論物理学界を挙げての「燃え尽き」型化に著者は苦言を呈したいと思っている。
 ――著者の佐藤さんの言いたいことはだいたいこういうことなんだと思うのですが、私が論旨を十分に掴み切れているかどうかはよくわかりません。