猫も歩けば...

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時間が短いと「保存則」は破れるという法則がある

 ここでは、これまで私が知らなかったことも書いておきましょう。
 私はじつは佐藤先生の『破られた対称性』だけではどうにもわからないところがあるので、別に広瀬立成『対称性から見た物質・素粒子・宇宙』(講談社ブルーバックスisbn:4062575051)という本を買ってきました。2006年の本ですから、小林さん・益川さんのノーベル物理学賞受賞前の本です。佐藤先生には悪いけれど、「対称性」についての入門書としてはこの広瀬さんの本のほうがずっとわかりやすい。でも『破られた対称性』はもともと入門書じゃないからそれでいいのでしょう。
 この『対称性から見た物質・素粒子・宇宙』の説明によると、無限大発散が起こるのは、非常に短い時間でだということです。
 これは保存則というのが関係してきます(のだろうと思う。この保存則との関係は広瀬さんの本にも書いてありません)。質量保存の法則とか、エネルギー保存の法則とかがある。質量(重さ)やエネルギーは、物質どうしがどんな反応をしても変化しない。現代の物理学によると「質量」もエネルギーの一種だということですから、質量がエネルギーに変わることもあるけれど、質量も含めたエネルギーは、どんな反応が起こっても一定で、変化しないというわけです。
 で、この保存則がある以上、一つの電子のまわりに電子と陽電子が無数にできて、電荷(電気の量)が無限大になってしまうなどということは起こるはずがありません。電子も陽電子も質量を持っていますし、電子は電気エネルギーを持っていますから、そんなことが起これば、一つの電子が無限大の質量と電気エネルギーを生み出すことになる。それは保存則に反する。
 ところが、非常に短い時間では、この「保存則」が効かなくなるらしい。なぜかというと、粒子は運動量と位置を同時に確定することができないという「不確定性原理」があるからだということです。運動量は質量×速度ですから、質量は運動量の構成要素の一つです。そこで、質量の小さい粒子の影響で質量の大きな粒子が生まれても、位置が確定的につきとめられる前に消えてしまえば、大きく見ると保存則は破られていないことになる。じゃあ、人間が位置を突き止めなければ巨大質量の粒子はいつまでも存在しているのか、というと、そういうことではなくて、ほかの粒子と相互作用してしまうまでのわずかな時間ならば、保存則を破って巨大なままでいられるということ……だと思います。
 なんか「脱法行為」みたいです。「質量保存の則」から逸しているから。いや、それどころか、「犯罪をやっても警察が動き出す前に犯罪の証拠を消してしまえば問題ない」というのに近い違法行為のようでもあります。
 しかし、物理の世界では「禁止されていないことは必ず起こる」というのが原則なので、こういう脱法行為や違法行為も発生するわけです。あ、でも「行為」じゃないか。「行為」って意志を持って行うことをいうわけで、「自然にそうなっちゃった」というのは「行為」ではないのかも。でも法則を逸脱しているには違いがない。いや、「ごく短時間では粒子は保存則という法則を逸脱することがあるという法則」にしたがっているわけだな。ややこしい。
 そこで、「電子の周囲で絶え間なく生成と消滅を繰り返す電子‐陽電子対」というのを考えたとき、その生成と消滅の時間を短く考えれば考えるほど、保存則からの逸脱が大きくなる。しかも、生成と消滅の時間はほんとに短くないといけない。そうでないと、電子から放たれた光子は光の速度で遠いところまで飛んで行ってしまいます。一秒に30万キロも走る光子が電子のすぐそばを離れないうちに電子‐陽電子対を生成しなければならない。30万分の1秒でも1キロ、3億分の1秒でも1メートル、3兆分の1秒でも0.1ミリ飛んでしまう。0.1ミリでも原子の大きさからするとあまりに大きい。電子のすぐそばで電子‐陽電子対が生まれるのは、光子が電子を出てから何億分の一とか何兆分の一とかの単位で測れるよりももっとはるかに短い時間でなければいけない。そうすると、その短さは、保存則からの逸脱が起こる時間の範囲になってしまう。それで、計算上、無限大発散というのが起こってしまうわけです。
 ……んだと思う。もぅ、数式見てもわかんない状態でこういう話題を書くと、なんか言い切れなくて困ります。違ってたらごめん。
 それで、じゃあ、そっちがそういうあり得ない法則違反(無限大発散)をするなら、こっちも掟破りで、その法則違反を打ち消す「あり得ない」違反をやって、発散を打ち消す無限大を計算に持ちこもう。それで相手のその法則違反を打ち消してしまえばいいというのが「くり込み」です。