猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

平せ隆郎『都市国家から中華へ』講談社(isbn:4062740524)

 平せさんの本は前から何冊も読んできた。というか、ここのところ、中国史関係でいちばんたくさん本を出している人の一人ではないだろうか。同じシリーズで、キタイ・遼から大元までを担当している杉山正明さんとともに、いちばん脂ののりきっている東アジア関係の(杉山さんは「東アジア」に限らないけど)研究者だろう。
 このシリーズは、中国古代についての考古学の巻を独立させ、紀元前3世紀までのこの巻を第二巻に持ってきたところが特徴的だ。第一巻では考古学的な遺跡・遺物を通じて夏・殷の古代王朝にアプローチするのに対して、第二巻では文献にもとづいて古代王朝にアプローチする。考古遺物も用いるけれど、それを「文献」として考証し、駆使するわけである。したがって、第一巻では「文字資料がないから夏王朝の存在は証明できない」という立場をとらないのに対して、第二巻ではまさに文字資料がないことをもって夏王朝を歴史上の王朝として扱うことを避ける。ただし、どちらの本も「殷より前の王朝」の存在を認めている点では共通している。
 ほかにも、このシリーズでは、秦漢帝国魏晋南北朝のどちらかに吸収されてしまいがちな三国時代を独立させたりして、時代区分に特徴を見せている。これってどうなのかな? 成功してるのかな? たしかに、夏や三国については、立場と視角の違う文章が読めて、読者としてはおもしろいですけどね。
 どちらにしても、このシリーズ、分量も多い上に内容もヘヴィーで、ちょっと読みこなすのがたいへんではある。……と、更新遅れの言いわけでした。