猫も歩けば...

― はてなダイアリーより引っ越してきました ―

「帝制」の成立

 さて、この「一つの役職には必ず二人以上を任命する」という制度にも一つだけ例外があったそうです。それが「独裁官」 dictator という制度です。都市が危機に陥ったときに限り、しかも期間を厳しく限定して、一人に権力を集中するのです。つまり、「独裁」とは「共和国を防衛するための変則的な一人支配」なのです。しかも、その「独裁官」すら、権力の一人への集中への警戒から、よほどの国家的危機でないと設置されないのが普通だったようです。
 ところが、帝国が拡大し、地中海一帯に属領が広がると、「都市の政治」を前提とした政治体制は巧くいかなくなってしまいます。また、伝統的な「貴族と平民」の身分のあいだに、どっちともつかない新興集団が出てきたりする。そこで、紀元前1世紀ごろには、そういう国家をまとめるために、または、そういう国家をまとめると称して、一人に権力を集中しようとする政治家が次々に出てきます。
 そういうなかで登場したのがカエサルジュリアス・シーザー)です。カエサルは、「触れてはならない役職」だったはずの独裁官に就任し、ついには「王」になろうとしていると思われて暗殺されます。「王」になるというのは、「共和制国家ローマ」の根幹を否定する大事件だったのです。ちなみにこのとき「ブルータス、おまえもか」と言……わなかったらしい。「息子よ、お前もか」とギリシア語で言った、と伝記には書いてあるそうです。「ブルータス、お前もか」というのは、それをもとにしたシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』のせりふです。しかも、シェイクスピアはわざと古めかしい感じを出すために、英語の劇のなかでこのせりふだけラテン語にしているので、邦訳も「お前もか」より「汝(なんじ、または、なれ)もか」のほうが感じが出るのかも知れません。
 その反乱者を撃破し、カエサルの後継者として華々しく登場したアントニウス(アントニオ、アンソニー)も滅び、カエサルの後継者の地位はカエサルの養子のオクタウィアヌスに転がりこみます。
 オクタウィアヌスは、養父カエサルが王位への野心を疑われて暗殺されたことを考えて、実質的に国家の最高支配者の権力を手に入れても、「王」はもちろん、「独裁官」も名のりませんでした。与えられた称号が「尊厳ある者」という意味の「アウグストゥス」、養父から受け継いだ家族名が「カエサル」、そして、最高支配者の役職としては「軍最高司令官」の「インペラトル」――というあたりが使われました(ほかにもいろいろな役職や称号を持っていました)。「共和制」の枠を超える役職名は、「共和制」への脅威と考えられた「独裁官」を含めて、何も名のらなかったのです。
 ところが、その「アウグストゥス」、「カエサル」、「インペラトル」が「皇帝」の称号として、「帝国」となったローマに受け継がれていくことになります。中世ヨーロッパでは、「皇帝」(「インペラトル」→「エンペラー」、「カエサル」→「カイザー」など)のほうが「王」(ローマでは rex 「レックス」でイタリア語・フランス語はこの系統、英語では king など)より偉いことになります。でも、本来は、「皇帝」のほうが「王」よりずっと控えめで、「共和制」のたてまえを破らない称号・役職名だったのです。この時代にはコンスルなどの「共和制」の官職も「皇帝」と並んで置かれています。
 「皇帝」は「ローマ市民の第一人者」として「元首 princeps 」とも呼ばれました。ローマ皇帝は後に「専制」化するので、「専制」化するまでの皇帝制度を「元首制 principatus 」として区別する言いかたもあります。いずれにしても、この「元首」は「君主」(上に「王」がいる国では「王子」や「公爵」など)を意味する prince ということばにつながります。ローマ皇帝は、もともと「王」より下の「プリンス」だったのに、後に「王」より偉くなってしまったわけです。
 ところで、「アウグストゥス」ということばは、現在のイタリア語で「おめでとう」の意味で使う「アウグーリ」ということばと関係があることばらしい。「尊厳な人」であるとともに「幸いな人」でもあったのでしょう(「おめでたい人」というと意味が変わるから……)。ちなみに私は「アウグーリ」ということばは『ARIA The ANIMATION』で知りました。ぷいにゅ〜っ!
 と、アリア社長さんのご挨拶が出たところで(ごめんなさいね、こういう話で>「ARIA」や「アリア社長」を検索してここに来たひと)今回は終わりにします。話は途中ですが……(いつ終わるんだ?!)。