猫も歩けば...

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「コモンウェルス」とは何か?

 ところで、 common は「共通の、共有の、庶民の」という意味で、 wealth は「富」です。このことばを知って以来、なぜ「国家」が「共通の(庶民の)富」なのか私にはずっとわからなかった。これが res publica (レース・プブリカ)というラテン語の英語訳であり、 republic (共和国、共和制)と同じ意味だということは、ラテン語の勉強を始めてから知りました。ラテン語の勉強は最近あんまり進んでないですけど(汗)。「res」(もの、こと)は第五変化という「珍しい変化」をする名詞なので、名詞変化の説明では必ず出てくるのです。「publica」のほうは、 public と同じ「公共の」ですが、ラテン語では populus = people (民衆)から出たことばということで、「res publica」で「共有のもの」、「民衆のもの」、「みんなの関心事」のような意味になる。
 古代ローマの人たちは、自分たちがずっと昔に王を追放し、民衆(貴族を含む)自身で政治を行う政治体制を作り上げたことを誇りにしていました。だから古代ローマ人にとって国家は res publica だったわけです。
 つまり commonwealth は republic であり、「共和国」です。現在では、「共和国」や「共和制」は「君主のいない国家・政治体制」の意味で使います。また、ローマでも本来はそうだったのです。しかし、その後の西ヨーロッパでは、王制国家であってもその国のことを res publica や commonwealth と呼んだようです。また、ホッブズは、むしろ理想的なコモンウェルス commonwealth の支配は王制でなければならないと主張しています。
 したがって、 commonwealth を「共和国」と訳すると、「共和国は王制であってもかまわない」とか「理想の共和国は王制であるべきだ」などとなってしまう。これでは現在のことばの意味と合わなくなってしまいます。そこで、岩波文庫の水田洋訳『リヴァイアサン』(第一分冊 isbn:4003400410)では「コモン‐ウェルス」とカタカナ書きし、加藤節訳『統治二論』の新訳では「政治的共同体」としています。私は、日本で自治体を指す用語として使われる「公共団体」ぐらいが訳としていいのではないかと思いますが、「公共」はいいとして「団体」ということばはやはり誤解を招くかも知れない。もっとも、それを言えば都道府県を「地方公共団体」と呼ぶ呼びかたにも「都道府県は「団体」か?」という疑問が出てくるわけですが。耳慣れないことばでよければ、「公共国家」ぐらいがいい訳なのかも知れません。
 ところで、ローマより前の古典時代のギリシアで、国家を「公共(共有)のもの」、「民衆のもの」、「共通の関心事」などと呼んだ例があるかどうかは私は知りません。たぶんないのではないかと思います。
 でも、ロックにとっては、古典時代ギリシアの「ポリス polis 」(都市)と古代ローマの「キウィタス civitas 」が同じもので、それがさらにコモンウェルス commonwealth と同じだったようです。だから、ロックにとっては、大まかに言って:
 ポリス polis = キウィタス civitas = レース・プブリカ res publica (= リパブリック republic )= コモンウェルス commonwealth
なのだろうと思う。
 ロックにとって、コモンウェルスとは、「人民どうしの平等な関係にもとづいて成り立ち、その関係にもとづいて支配が行われる国家」ということになります。
 そして、「政治=ポリス(都市)に関すること politics 」が存在するのはこの「ポリス = キウィタス = レース・プブリカ = コモンウェルス」にだけだということになる。